岸田首相が長期政権を見据えて爪を研ぐ“脱・安倍”権力闘争!
「清和政策研究会95人、一致結束してしっかりと岸田政権を支えていくことをお約束いたします」
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安倍晋三元首相は12月6日夜、東京プリンスホテルで開催された「安倍派」初の政治資金パーティーで、自民党最大派閥としての数を誇示しながら、岸田首相の政権運営に協力していく姿勢を強調した。
安倍氏が派閥に復帰し、清和会会長に就任してから約1カ月後に開かれたパーティーには、岸田文雄首相や自民党の麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長ら政権幹部がこぞって出席。参加者は2000人以上にも及び、安倍氏の権勢を見せつけた。
岸田派(宏池会)のベテラン議員が、苦々しげな表情で話す。
「安倍さんはああ言うが、本心は別。『歴代の清和会会長は日本政治の背骨を担ってきた。その職責に全力を尽くす』とも言っている。『何かあればいつでも政権を担える』と、岸田さんに圧をかけているんだよ」
しかし、あいさつに立った首相は、安倍氏と清和会を最大限に持ち上げた。
「みなさんが間違いなく岸田内閣をど真ん中で支えてくださっている。大変ありがたいことで、政治の安定で大きな意味を持っています。参院選に向けてご指導いただきたい」
内心のざらつきを感じさせることなく、表面的には「恭順」の意を示したのだ。
10月31日の衆院選では大敗が予想される中、自民党は想定外の261議席を獲得。各社の世論調査でも、岸田内閣の支持率は軒並み60%を超えた。とはいえ43人の岸田派は党内第5派閥にすぎず、政権基盤がぜい弱だ。政権安定のためには安倍氏への「配慮」が必要というわけだ。
だが、今後の長期政権を見据える岸田首相にとって、安倍氏と向き合う本音は配慮ではない。
衆院選後の11月上旬、永田町の岸田派事務所に、首相と同派事務総長の根本匠元厚生労働相、宮沢洋一党税調会長、木原誠二官房副長官ら幹部が集まった。
同派の中堅議員が話す。
「岸田派として考えてきた長期政権への戦略を確認した。『先手のコロナ対策』と『経済対策優先』、それに加えて『脱安倍』です」
独自の政策を進めるために…
長期政権の実現には参院選勝利が不可欠。だから、後手に回った菅政権と同じ轍を踏まないように、コロナ対策を打っていく必要がある。景気の息切れを防ぐため、夏前に大規模な経済対策に取り組めば、内閣支持率は維持できる。そして参院選後、独自の政策を進めるには、何よりも脱安倍が重要となる。岸田首相は、宏池会結成以来の伝統である経済重視路線を引き継ぎ、「成長と分配の好循環」による「分厚い中間層の育成」を政権の最重要課題に掲げる。かつて宏池会会長を務めた池田勇人元首相や大平正芳元首相を意識して、「令和版所得倍増計画」や「デジタル田園都市構想」の推進も打ち出した。
外交・安全保障分野での最大の懸案は、威圧的な対外膨張政策を進める中国への対応だ。米国と中国の対立は激化し、日米連携強化の重要性は高まる一方だが、首相は対話を模索している。来年は日中国交正常化50年の節目でもあり、習近平国家主席との首脳対話を通じて、懸案の解消につなげようと目論む。
こうした重要案件に正面から取り組むには、参院選勝利による政権基盤の強化に加え、脱安倍によって政権運営の主導権を握ることが欠かせないのだ。
実際のところ首相は脱安倍に向けて動き出している。骨格となるのは「岸田・麻生・茂木ライン」の構築だ。岸田派だけでは安倍派の半分にも及ばないが、麻生派53人、茂木派53人を合わせれば140人を超えて、最大勢力となる。
安倍政権時代、麻生氏は安倍氏の盟友として政権を支えてきたが、「安倍一強」の下で進んだ「自民党の弱体化」(麻生氏周辺)に危機感を募らせ、「政策と選挙に強い自民党の再興に、残りの政治家人生を捧げる」つもりだという。
麻生氏が描く「強い自民党」の姿とは、宏池会系の岸田・麻生派と谷垣グループで「大宏池会」を結成し、清和会との二大派閥で「疑似政権交代」をしていくものだ。麻生氏の晩節は「岸田首相との二人三脚」次第とも言える。
先の宏池会ベテラン議員は「大宏池会を実現したい麻生氏は、首相を必ず支えてくれる。茂木氏は参院選対策とカネを任せられ、首相と運命共同体になった」と話し、いまや「KAMライン」が政権の要になっている現状を説明した。
「岸田降ろし」をどう防ぐか
岸田首相の意外な政局巧者ぶりは、二階俊博元幹事長と菅義偉前首相に対しても発揮された。首相にしてみれば、非主流派に転じた両氏が安倍氏と組むと、政権の低迷時に「岸田降ろし」を仕掛けられかねない。それを防ぐには2人と「手打ち」をする必要がある。
首相の動きは早かった。幹事長を退いた二階氏が、党国土強靱化推進本部長を続投することを容認。側近の林幹雄前幹事長代理には地方創生実行統合本部長の役職を与え、2人が党側の公共事業政策を仕切る態勢を受け入れた。
二階氏には、さらに「特命」を要請した。二階派の中堅議員が話す。
「中国との関係が深い二階さんに、パイプ役をお願いしてきました」
来年2月の北京冬季五輪に閣僚を派遣しない「外交ボイコット」が叫ばれる中、首相の「懇請」を受けた二階氏は12月上旬、中国の孔鉉佑駐日大使と都内のホテルで、「新しい時代の日中関係」について極秘裏に会談。福田康夫元首相らも「老朋友」として同席した。
前出の中堅議員によると、二階、福田両氏が事実上の首相特使として、北京五輪開会式に出席することもあり得るという。
首相は11月下旬、「親中派」と攻撃されやすい林芳正外相に代わり、岸田派の金子原二郎農相に、現職閣僚として孔氏と会談させていた。それでも行き詰まった日中関係を打開するには「二階先生しかいない」として、全幅の信頼を示してみせたのだ。
首相は菅氏に対しても懐柔策に出ている。11月11日、コロナ感染者数の激減は菅氏の功績だとして、同氏を官邸に招いて謝意を伝えた。国のデジタル化推進や「GoToトラベル」事業の再開も打ち出し、菅政権の「レガシー」を継いでいく姿勢を明確にした。
菅氏が無派閥グループを糾合し、事実上の「菅派」を結成する動きに、ブレーキをかける思惑があるのは言うまでもない。
脱安倍を目論む岸田首相の元には、安倍氏に関する「マル秘情報」も入っているようだ。11月17日、首相は衆院第1議員会館の安倍氏の部屋を訪れていた。安倍氏に「来てほしい」と求められたのだ。現職の首相を呼び付けるのは異例だが、部屋を出た後、首相は周囲に「安倍さんも大変だな」とつぶやいたという。
宏池会の悪弊である“官僚丸投げ”の体質
その前日、東京地検特捜部は日本大学医学部の付属病院をめぐる背任事件で、日大元理事とともに大阪の医療法人「錦秀会」の籔本雅巳前理事長を背任罪で追起訴した。首相に近い政府関係者によると、安倍氏は「捜査の行方を気にしている」という。籔本被告は安倍氏の有名なタニマチで、ゴルフ仲間でもあるからだ。
「首相は安倍氏に捜査の状況を聞かれたようだ。弱みを握った気分だろう」
政府関係者はその心中を代弁した。
だが、岸田首相にも逆風が吹く。内閣官房参与に任命した石原伸晃元幹事長が、コロナ助成金を自身の選挙区支部で受給していたとして批判にさらされ、即座に辞任。首相は12月6日開会の臨時国会で、立憲民主党など野党から任命責任を質された。
文書通信交通滞在費の見直しについては、政権としての基本的な姿勢を問われた。10万円給付で「現金5万円、クーポン5万円」とした当初方針を「全額現金も容認」に転じたことには、「朝令暮改により自治体を混乱させた」などと厳しい追及を受けた。
「聞く力」を信条とする首相は「野党の意見も踏まえ、柔軟に対応した」と釈明したが、「宏池会の悪弊である『官僚丸投げ』の体質が出た」(自民党関係者)との見方が大勢だ。
臨時国会は21日で閉会となったため、傷口は広がらなかったが、来年1月召集の通常国会では、それこそ真価が問われる。政策を進めようとするたびに迷走を繰り返すなら、すぐさま「首相失格」の烙印を押されるのは必至だ。
二階氏や菅氏も今はおとなしくしているが、政局となったときに動かない保証はない。首相を脅かし得る河野太郎党広報本部長や小泉進次郎前環境相、石破茂元幹事長とは引き続き近い関係にある。
「今が引き締めどころだ。ここを乗り越えなければ、長期政権はあり得ない」
周囲にこう話す岸田首相は、最初の関門を迎えた。
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