『世襲の日本史「階級社会」はいかに生まれたか』(NHK出版:本郷和人 本体価格800円)~本好きのリビドー/昇天の1冊

菅義偉新総理誕生に際して、政治家は「世襲」か、「叩き上げ」かということが話題になった。菅総理は「叩き上げ」。好きな武将に豊臣秀吉をあげるなど、世襲を否定する立場だという。確かに名もない大衆の1人が国のトップに立つことに対して、親近感は湧く。

だが、日本史を紐解くと、権力者は世襲によって地位を保ってきた事実が分かる。そのことを伝えてくれるのが『世襲の日本史「階級社会」はいかに生まれたか』(NHK出版/800円+税)だ。

表紙の帯に踊るキャッチフレーズは、「日本社会は、『地位』より『家』!」。かつての武士社会は世襲の典型だった。源頼朝、足利尊氏、徳川家康ら、征夷大将軍は全員、将軍を世襲として「家」から輩出するシステム作りに腐心した。大名たちも世襲だ。男児が誕生すれば、どんな愚鈍であろうと、次の殿様候補だった。

「地位より人、人は血、いや血より家が大原則」

医師の家庭に生まれれば、親の後を継いで医者。芸能人、企業社長らも、見渡せば世襲だらけ。逆に農民の子は農民であり、だからこそイチゴ農家に生まれた国のトップは異彩を放つ。

「地位より人、人は血、いや血より家が大原則」と本書は断言する。それが「歴史のカラクリ」。そのカラクリが日本の「階級社会」を形作ってきたと…。認めたくはないが、納得できる。

著者は東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏。日本は能力主義を重視した「自由な社会」なのかと、疑問を呈す。新総理は世襲を打破し、能力主義の政治を実践できるだろうか。

(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)