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『世界で一番美しい少年』/12月17日(金)より全国公開中〜LiLiCo☆肉食シネマ

ⒸMantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021

『世界で一番美しい少年』
監督/クリスティーナ・リンドストロム、クリスティアン・ペトリ
出演/ビョルン・アンドレセン
配給/ギャガ

私は日本に来た当初、「スウェーデンの出身です」と自己紹介すると、必ずといっていいほど言われてきたのが「アバ」「ボルボ」「フリーセックス!」。そしてもう1つ、「ビョルン・アンドレセンと同じね」と。

その存在を知らなかった私は、いろいろ調べても写真と彼をスターにした『ベニスに死す』の映画のみ。〝どんな人?〟〝今はどうなってる?〟と謎は深まるばかりで、ビョルンにどんどん惹かれていきました。

そして、ついにドキュメンタリーが公開! 自分でも、なぜだか分からないくらい涙が流れました。私の周りの映画関係の女性たちも大絶賛。私が思い焦がれた相手は、こんなにも静かで孤独な人だったのかと。彼の切ない人生に、グイグイ引き込まれていきましたし、心が痛くなりました。

巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』の公開から50年。映画の登場人物タジオ役に選ばれたビョルン・アンドレセンは、特に日本での人気が凄まじかった。このドキュメンタリーはオーディション当時から振り返ります。監督はビョルンが部屋に入って来て、すぐに〝彼だ〟とピンと来たらしいですが、「上半身脱いで」と言われた時の戸惑ったビョルンの顔を見た瞬間、勘が鋭い方なら読み取れるでしょう。何も知らされずにオーディションに行かされた、普通の15歳の若者であったことを。

レッテルに人生を潰されて…

でも、見事に役を獲得し、エリザベス女王も出席する映画プレミアから2カ月後にカンヌで人気が爆発。ヴィスコンティ監督が言った〝世界で一番美しい少年〟が新聞の見出しになり、この言葉が後に、ビョルンから一生離れることのないレッテルになったと同時に、彼の人生を潰してしまいます。ビョルンは語ります、「悪夢のようだった」…と。

また、ビョルンのご両親にも物語があり、劇中で語られます。ビョルンは母方の祖母に育てられましたが、孫の心中など全く考えず、俳優ビョルンの祖母として人生を満喫していることに胸が痛くなります。

日本ではCMに出演したりレコードデビューしたり、言われるがまま。そして、何より悲しいことに、現代の彼はガスをつけっぱなしにして大家さんに注意されるオジサンに。恋人はいるものの、優しくてソフトな人柄が邪魔をして、こっぴどく彼女に怒られたり…。

数年前に公開された『ミッドサマー』に登場したビョルンに世間はハッとしましたが、彼のことを知らなくても、これから知ってほしい。彼は〝世界で一番美しい心を持った少年〟です。

LiLiCo
映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS『王様のブランチ』、CX『ノンストップ』などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。

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