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オミクロン株の日本経済への影響~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

「オミクロン株」の特性については、まだ分かっていないことが多いが、ほぼ確実なことは、デルタ株と比べて感染力が非常に強いということだ。

それは、南アフリカで短期間のうちにデルタ株を駆逐してしまったことや、世界中に拡散したことからも明らかだ。

12月5日付の日本経済新聞によると、オミクロン株は空気や光から身を守る盾のような力を強めている可能性があるという。その結果、エアロゾル感染と比べて、ウイルスの滞留時間が増え、空気感染に近い状況が生じる可能性が高まっているのだ。

一方、まだよく分かっていないのが、どれだけ重症化するのかということと、ワクチンがどれだけの効果があるのかということだ。ただ、少なくともワクチン未接種者は重症化しており、ワクチン接種完了者に対する「ブレイクスルー感染」が多く報告されていることから、ワクチン接種の効果が少なくとも短命化していることは、間違いのないところだろう。

そうなると、日本で感染が懸念されるのは、ワクチン未接種の子供たちと、先行して接種が行われ、抗体量が落ち始めた高齢者だ。そのため岸田文雄総理も、これまで2回目の接種から8カ月後としていた「ブースター接種」のタイミングについて、できるだけ前倒しする方針を表明した。しかし、その対応は、すでに後手に回っている。

アメリカは、11月に18歳以上のすべてに6カ月後のブースター接種を推奨しており、韓国は最短4カ月後へと前倒ししている。こうなると、出遅れた日本は、前倒しに必要な量のワクチン確保が困難になる恐れがある。結局、日本は、ワクチン接種がほぼ完了した今年11月から8カ月後、すなわち来年7月ごろまで、感染拡大が避けられないのではないか。

日本政府の致命的なミスとは…

そして、オミクロン株の感染を収束させるためには、オミクロン株対応のワクチン接種が必要になる。ファイザーやモデルナは、数週間で対応ワクチンを出荷できるとしているが、今年のワクチン確保の経緯を考えれば、日本に回ってくる時期が相当に遅れることは確実だろう。

結局、日本政府が採れる対策は、またしても得意の「自粛要請」になってしまうのではないか。欧米の経済が回復する中で、日本経済だけが出遅れるという現在の経済状況が繰り返される可能性が高いのだ。

私は、国産ワクチン開発に本気を出さなかったことが、日本政府の致命的なミスだと思う。国産ワクチン開発は進んでいない。DNAワクチンで知られる『アンジェス』は、治験の結果、「期待する効果が得られなかった」と白旗を上げた。

組み換えタンパクワクチンの『塩野義』と不活化ワクチンの『KMバイオロジクス』は、10月から「P2/3試験」という最終治験の前段階を開始したところだ。塩野義は最短で来年3月、KMバイオロジクスは22年度中の承認を目指しているという。こんな悠長なスケジュールでは、とてもオミクロン株対応のワクチン大量生産の見通しは立たない。

なぜ厚生労働省は、欧米のワクチンを緊急承認しながら、国産ワクチンには厳格な治験を求めるのだろうか。もちろん、新しいワクチンを国民に大量接種するときには、大きなリスクを伴うことは事実だ。

しかし、感染症が命を奪うのと同様に、経済の低迷も命を奪ってしまう。事なかれ主義の厚労省を変えることができるのは、実のところ政治家だけだ。

岸田内閣は、早急にオミクロン株の感染拡大防止を図るため、実効性のある戦略を示すべきだろう。

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