『私はいったい、何と闘っているのか』
監督/李闘士男
出演/安田顕、小池栄子、岡田結実、ファーストサマーウイカ、SWAY、金子大地、菊池日菜子、小山春朋、田村健太郎、佐藤真弓、鯉沼トキ、竹井亮介、久ヶ沢徹、伊藤ふみお、伊集院光、白川和子
配給/日活・東京テアトル
原作は、つぶやきシローの小説。彼の世界観を映像化するとこうなるだろう、というほど主人公の独白が全編に満ちています。
セリフに頼りすぎるのは、本来、映画の「禁じ手」みたいなもの。言外の演技で語るのが主演の安田顕にとっても役者の醍醐味だと思うのですが、本作に限っては、想像の余地なく独白最優先なのも合点がいきます。
何かと面倒くさい今の世の中、忖度の1つもできないと生きていけない。そして他人にとっては些細なことでも、過剰に反応して心は乱高下を繰り返す。この主人公ほど極端ではないにしても、誰しも心の中と行動は裏腹です。稀に心の声がダダ漏れの人もいますが、笑顔の下で本音を内に向けて吐き続ける主人公には、自分を省みても〝分かりみ深すぎ〟です。
ただ、一見平凡すぎるマイホームパパ&スーパーの万年フロア主任の春男の日常にも、「実は」の試練が用意されていて、それが映画の山場として成功していると思いました。
ファーストサマーウイカの“女優っぷり”に感心
春男を通して、どこの街にでもあるスーパーの主任の仕事を垣間見ることもできます。
これがまた息つく間もなく大変そうです。発注だの販促だの細々とした仕事に日々追われ、さらにお客様から上司、部下、アルバイトの女性にと気を遣いまくるポジション。世の中で一番しんどい仕事の1つじゃないかと。自分もたまにスーパーに行ったりしますが、フロア主任とおぼしき人に対して、これからは尊敬の目で見てしまいそうです。
そんなしんどい日々の中でも、「いつかは店長に」という上昇志向を保ち続ける、その前向きさが自分のようなぐうたらな者には信じられないほど眩しくもあります。店長だなんて、もっと忙しくなるだけだろうに。独白もよく聞いていると、彼の場合は愚痴やボヤキじゃないんですね。見栄、虚勢、嫉妬、カラ元気…高すぎる自意識との、まさに「闘い」です。
さて、あるあるネタを絶妙にズラして笑いに変えるつぶやきシローの才能は、作家としても開花していますね。1作目の小説は、番組でご一緒した時にご本人からいただき、読みました。2作目の本作の原作は未読でしたけれど。昨今の芸人やタレントは自分でネタを作るからか、もはやクリエイターとして通用する多才な人が多いのも事実。
出演者の中で印象的だったのは、ファーストサマーウイカ。バラエティー番組を席捲する美形毒舌キャラですが、本人と気づかないほどの見事な女優っぷり。まだまだ何かやってくれそうで、今後に期待大です。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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