やくみつる☆シネマ小言主義~『滑走路』/11月20日(金)より全国ロードショー

『滑走路』 監督/大庭功睦 出演/水川あさみ、浅香航大、寄川歌太、木下渓、池田優斗、吉村界人、染谷将太、水橋研二、坂井真紀 配給/KADOKAWA

32歳の若さで自死した歌人による『歌集 滑走路』。いじめや非正規雇用などを経験しながら、それでも希望を託した歌が評判になり、異例のベストセラーになったそうです。

本作は、夭逝した歌人の「魂の叫び」が詰まった歌集をモチーフに、全くのオリジナルストーリーを編み出した意欲作です。

将来的なキャリアと夫との不和に悩む切り絵作家の主婦、非正規雇用の問題に取り組む若手官僚、幼馴染をかばっていじめの標的にされる学級委員長。それぞれに生き辛さを感じている3人の人生がいつしか交差する凝った構成で、いつの間にか引き込まれました。

自死が扱われる作品ということで陰々滅々とした内容を想像されるかもしれませんが、それで敬遠するのはもったいない。むしろ見終わった後は、3つの人生がリンクする不思議に混乱させられながらも、ミステリーを読み解いた爽快感すら味わえます。幾重ものエピソードが伏線として張られ、後から繋がっていくので見逃さないようにしてください。

死は遠い先のことじゃない だから慌てなくていい

昨今、芸能人の自殺が続き、コロナ禍での自殺者数も増えていると聞きます。

自分の周りでも、これまでに3人いました。それぐらい、自殺はもう身近な問題になっているんですね。

自分は悲しいかな、自殺をしてしまうほどに思い悩んでいる人の心の内に寄り添うだけの度量を持ち合わせていません。かけられる言葉は「死ぬなよ」だけです。

還暦をすぎ、終活を始めるにあたってつくづく思うのですが、これまでの人生、実にアッという間でした。

100歳まで生きた方も、長命をしみじみ思うより、すぎてしまえば一瞬だったと感じるのではと想像します。

天寿を全うしたところで、アッという間に、誰にももれなく死はやってくるんです。この歳になってやっと気付きましたが、死は遠い先のことじゃない。だから「慌てなくていいですよ、そのうち自然に死なせてもらえますから」と言いたいですね。それで思いとどまってくれるかは分かりません。本人は死を急いでいるのではなく、生きているのが死よりも辛いのでしょうから。

いじめられていた友達を救うといえば、自分にも経験があります。ただし、この学級委員長のように真っ向勝負じゃなく、速攻チクリました。先生に直接告げても取り合ってもらえないと考え、その友達の親に注進し、大人経由で問題化してもらう作戦。小ずるいですよね。