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『ワタカ』群馬県邑楽郡/海老瀬川産〜日本全国☆釣り行脚

日本全国☆釣り行脚
日本全国☆釣り行脚 (C)週刊実話Web

晩秋から初冬へと移り変わるこの季節、内陸部の用水路の釣りが恋しくなることがあります。

水路に水が入り、水温の高くなる初夏から秋にかけては魚たちの活性も高く、フナやらモロコやらが元気なアタリで楽しませてくれます。それはそれで楽しいのですが、稲刈りが終わって減水し、冬枯れる一歩手前の風情というのが、これまたなんとも哀愁を感じさせるものがあって惹かれるんですね。ま、こちらも哀愁漂うオッサンなものですから…。

そんな哀愁の釣りをするべくやって来たのは、東武鉄道日光線の板倉東洋大前駅の前を流れる海老瀬川です。ワタクシ自身、ここで竿を出すのは初めてです。もちろん、事前に〝釣れている情報〟などはありません。それどころか、この川での釣り情報自体がほとんどありません。でもいいんです。哀愁の釣りですから。最近、心が病んでいるので、人けのない水辺で誰にも触れられずに、ただ静かにウキを眺めていたい…そんな気持ちで電車に揺られ釣り場へ向かいます。

駅を降りれば昼すぎの静かな駅前に人影は全くなく、目の前の海老瀬川を見ると予想以上に水が少なく、水深は20センチほどと激浅です。当然、川底は丸見えで、変化のない泥底に魚の姿はありません。「まあ、渡良瀬遊水地につながる水路だから、どこかに魚がいる場所はあるでしょう」と川沿いをのんびり歩いてみることにしました。

そろそろ帰ろうかというところでウキが…

人通りの全くない駅前の道を川沿いにしばらく歩くと、小さな水路との合流点に出ました。汚く濁った水が流れ込む辺りは少し深くなっているようで、水底は見えません。「取りあえず試しにここでやってみるか…」安物の渓流竿に簡単な玉ウキ仕掛けをセット。エサのサシをハリに付けて静かに仕掛けを振り込みます。極めて緩やかな流れに乗り、ゆっくりと流れる玉ウキにアタリはありません。

日本全国☆釣り行脚
日本全国☆釣り行脚 (C)週刊実話Web

「まあ何かいれば、そのうちアタリが出るでしょう」と、のんびり仕掛けを流すうちに、ピコッとウキにアタリが出ました。スーッと水中に引き込まれたところで軽く手首を返すと、ブルブルッと小気味よい手応えでオイカワがハリ掛かりです。「いたいた…」事前情報が全くない釣り場は、この瞬間がまた何ともたまらないもので、エサを付け替えて再び仕掛けを流します。

時折、エサのサシを新しい物に替えながら仕掛けを入れることもあり、サシの体液が寄せエサ効果となったのか、しばらくするとポツリポツリとオイカワやタモロコ、小ブナといった小物たちが楽しませてくれるようになりました。そんな中、ひときわキラキラと輝く魚がハリに掛かり、手にして見るとワカサギです。隣接する渡良瀬遊水地には生息する魚ですから不思議はないのですが、「こんな小汚ない水が流れ込む濁ったところで…」とちょっとビックリです。

さて、秋の日はつるべ落としと言いますが、夕方になると早くも暗くなり始め、寒くもなってきたことからそろそろ帰ろうか、というところでモゾモゾとしたアタリがウキに出ました。軽く合わせるとキュキューンッと今までの小物とは明らかに違う手応えです。何が掛かったのかと慎重にやりとりをして抜き上げたのは、普段あまり見慣れない魚ゆえ、一瞬何だか迷いましたが25センチほどのワタカでした。

川魚らしい素朴な味わい

ワタカ
ワタカ (C)週刊実話Web

初冬の静かな水路の釣りを満喫できた上、最後に面白い魚が釣れて満足、と逃がす直前に「そういえばワタカって食べたことがないなぁ」と思い、せっかくなので今晩の肴にさせていただくことにしました。

もともと琵琶湖と淀川の固有種であるワタカ。それが、琵琶湖産のアユの放流とともに、各地に生息地が広がったという経緯を持つ魚ゆえに、それほど一般的に知られた魚ではありません。そして、もともとの生息地であった琵琶湖においては、近年かなりその数を減らしているという。ワタカは水面近くのヨシ(アシ)などに産卵をすることから、水辺の開発などの影響を受けやすいようです。そういう意味ではラムサール条約湿地に登録されている渡良瀬遊水地は、ワタカにとっても貴重な水辺なのかもしれません。

そんなワタカを味噌煮にして晩酌です。見た感じ、ニシンを思わせるような風貌から小骨が多そうなので骨切りを施し、出来たてを一口。コイ科の淡水魚ゆえ懸念された泥臭さは思いのほかあまり感じられず、淡白ながらに決して不味くはありません。

ワタカの味噌煮
ワタカの味噌煮 (C)週刊実話Web

冬枯れの水路で素朴な釣りを静かに楽しみ、そして素朴な肴で静かに晩酌。お陰さまで心癒される1日になりました。

三橋雅彦(みつはしまさひこ)
子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。

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