韓国発のエンターテインメントが世界を席巻している。
動画配信サービスのNetflix(ネットフリックス)で韓国ドラマが軒並み世界一となり、ヒップホップグループ『BTS』が全米シングルチャートで10週連続1位を獲得するなど、韓国エンタメの快進撃が続いている。その秘密に迫った。
『イカゲーム』というタイトルの韓国ドラマをご存じだろうか。それぞれに事情を抱え人生に行き詰まった人々が、一攫千金を夢見て命懸けの挑戦をする。日本でも流行したデスゲームを描いたドラマだ。
今年9月17日の配信開始以来、28日間で1億4200万世帯が視聴。アメリカを含む94カ国で1位を獲得し、Netflix史上最大のヒット作として、およそ1020億円以上を稼ぎ出した。
ほかにも『愛の不時着』や『梨泰院クラス』『夫婦の世界』など、Netflixやそれ以外の動画配信サービスの上位には、ことごとく韓国ドラマがランクインしている。
振り返れば2年前の2019年には、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞し、翌年にはアカデミー賞を受賞するという快挙を成し遂げている。
これらの成功の背景には、いわゆる「韓流ブーム」の隆盛がある。ブームの原点は1997年、韓国が「アジア通貨危機」によって、国家的経済危機に陥ったことがきっかけだった。
韓国映画界の関係者はこう語る。
「当時の金大中大統領は、経済再建戦略として文化産業の振興を掲げ、政府による機関『韓国コンテンツ振興院』を設立して、文化産業の育成と輸出振興の助成を行ったのです」
これによって韓国各地の大学に、映像学科や実用音楽学科が新設され、韓国ドラマやK-POPの担い手が育っていった。
国策として主導した韓国政府
日本における韓流ブームは、03年にNHK-BS2(04年にNHK総合)で放送された『冬のソナタ』が火付け役だった。04年にはNHK-BS2で、韓国の時代劇『宮廷女官チャングムの誓い』が人気を博し、それまで中年女性が主だった視聴者層が、中年男性にも広がっていった。
11年には、地上波3チャンネルしかなかった韓国のテレビ界に、飛躍の機会が訪れる。韓国政府が主導する国策として、大企業や新聞社資本のケーブルテレビを普及させ、その後にインターネットとテレビを利用して、ビデオ映像を配信するサービス「IPTV」が次々と誕生したのだ。
そして、マンションの管理会社が地域のケーブルテレビ事業者やIPTV事業者と契約し、数百円という安い値段で利用料と管理費を徴収する方法を取ると、韓国の有料放送における世帯普及率は、あっという間に9割を超えた。
こうして韓国は、多チャンネル化とブロードバンドの普及に成功。お金を払って見る視聴者は、当然ながらコンテンツにクオリティーを求めるようになっていき、同時にコンテンツを制作する側も、クオリティー向上を目指して熾烈な競争をするようになっていった。
そんな状況の中、韓国でトップのドラマ制作本数を誇る制作会社が、『スタジオドラゴン』である。なぜ同社は、質量ともに高いレベルの作品を次々と制作することができるのだろうか。
1つ目の要因は、ヒットクリエーターを集める仕組みにあるという。韓国では、人気のある脚本家や映画監督、ドラマのディレクターは、マネジメント会社に所属することが一般的だが、スタジオドラゴンは設立以降、そうしたマネジメント会社を4つも買収している。
「つまり、数多くの優秀なクリエーターを傘下に置くことで、ヒット作の量産を可能にしているのです」(前出・韓国映画界関係者)
グローバル化を予測して入念に準備
2つ目はドラマの産業構造そのものを改革し、テレビ局を中心にしたものから、コンテンツ提供者である制作会社を中心にしたものに変えたことである。
それまでテレビ局がドラマを制作する場合、企画や俳優のキャスティングを考えるのは、テレビ局のプロデューサーで、制作会社はテレビ局の下請けという関係だった。
しかし、スタジオドラゴンは大ヒットドラマを連発することで、テレビ局を相手に優位な立場で交渉を進め、企画や流通、販売に至るまで、自社で行う権利を獲得したのである。
3つ目は設立当初の2010年代から台頭してきた動画配信サービスによって、コンテンツ産業の市場環境がグローバル化すると予測し、それに対応する準備を入念にしていたことが挙げられる。
「つまり、スタジオドラゴンとは、最初から〝世界で勝てるコンテンツを作る〟という目標を掲げて、立ち上げられた制作会社なのです」(韓国ウオッチャー)
そして現在、スタジオドラゴンによる売り上げの約4割を占めているのが、動画配信サービスへの同時配信など、2次、3次放映権料だという。今や韓国では、同社の制作スタイルがビジネスモデルとなっており、数多くの制作会社が新たなドラマ制作に向けて、しのぎを削っている。
韓国エンタメの勢いはとどまるところを知らず、しばらくは全世界でセンセーションを巻き起こしそうだ。
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