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『軍艦少年』/12月10日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義

Ⓒ2021『軍艦少年』製作委員会

『軍艦少年』
監督/Yuki Saito
出演/佐藤寛太、加藤雅也、山口まゆ、濱田龍臣、柾木玲弥、一ノ瀬ワタル、花沢将人、高橋里恩、武田一馬、赤井英和、清水美沙、大塚寧々
配給/ハピネットファントム・スタジオ

廃墟マニアの聖地、長崎・軍艦島が見える街に住む、父子の喪失と再生の物語です。どこまで原作の漫画に忠実なのかは分からないのですが、脚本作りに関しては企画・プロデューサーが「初稿」を書き、監督や原作者が意見を加えるという珍しい共同作業が行われたらしい。初稿がどんなだったのか興味が湧いてしまうほど、ストーリーも演出も「ベタ」の連続です。

主人公の息子役には、劇団EXILEの佐藤寛太。母の姿を絵に描く素直な男子が、最愛の母の死で金髪ヤンキーになり喧嘩三昧に。喧嘩相手である不良グループのラスボスは、悪役プロレスラー風のタトゥー男。父親役の加藤雅也は、妻の死を受け入れられず、仕事もせずに酒浸り。〝星一徹じゃあるまいし、今どき、一升瓶をあおるか? そこは、安い発泡酒の缶を飲み干しては、握りつぶすシーンになるんじゃ?〟などと、ツッコミどころが満載なんです。

ただ、ヒネリがない分、最後まで安心して見られる。見終わった時に、ベタをいちいち楽しむことが、このストレートで熱いエンターテインメント作品の味わいなのだと思い至りました。

憧れの「軍艦島」内部がつぶさに!

一方、出色の出来だったのは女性陣です。まず、母親役の大塚寧々。これまで数多くの作品でがんで病死する患者役を見てきましたが、大塚寧々の儚げな存在感がうまく生かされ、胸に迫ってきます。特に、病人メークが秀逸。まつ毛まで抜いて末期がんの状態を表現しているのかと錯覚するほどリアルでした。

そして、主人公のガールフレンド役の山口まゆがうまい。気が強くて、平気で男にパンチを食らわせるんですが、本当に効いているんじゃないかと思うほど、パンチのキレがよかった。本人はこれまでこういう役はやってこなかったと資料にありましたが、ハマッています。

さて、もう一方の主人公となるのが、この家族のルーツである通称「軍艦島」です。2015年に世界文化遺産に登録された海底炭鉱の採掘所だった島ですが、普段の観光ツアーでは立ち入ることが禁止されている廃墟内の様子がつぶさに撮影され、見どころとなっています。

これで思い出したのが、チェルノブイリに行った時に見た光景です。廃保育園の中なども見学したのですが、掲示物などもそのまま。慌ただしく退去させられ、二度と戻れなくなった故郷が廃墟になっている様子は痛ましかった。

「軍艦島」は自分もいつか行きたいと思っていましたが、この映画を見て、ますます「行かねばならん」と思いを強くした次第です。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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