「牛丼」「冷凍唐揚げ」高騰…コロナ後も続く食肉危機~企業経済深層レポート
クリスマスの食卓に彩りを添えるローストチキンが、今年は高値となり庶民は手が出ない――。そんな懸念が浮上している。
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輸入牛肉などの価格が高騰する「ミートショック」が問題となっているが、今度は冷凍鶏肉加工品について、販売の縮小や休止を余儀なくされる「チキンショック」が相次いでいる。ミートショック、及びチキンショックの実態について探ってみた。
まずは、ミートショックの現状を見てみよう。この秋、大手牛丼チェーンが軒並み主力メニューの値上げに踏み切ったことで、庶民の間から悲鳴が上がった。『吉野家』は牛丼並盛を387円から426円に39円値上げ。『松屋』も牛めし並盛を従来の320円から380円に60円値上げした。
牛肉高騰は牛丼チェーンにとどまらない。例えば牛タン専門店でも定食のセットなどが、夏以降、なんと600円以上も大幅アップしている。スーパーでも同様に米国産牛タンが、今年春先との比較で100グラム約200円も値上がりした。食肉市場の関係者が言う。
「農畜産業振興機構によれば、焼き肉などに幅広く使われる牛バラ肉の卸売価格は、2016年に1キロ590円前後だったが、今年9月には1キロ1100円前後と約1.8倍に跳ね上がっている」
輸入牛肉の異常な値上がりは、いくつもの事情が重なっているという。フードアナリストが解説する。
「オーストラリアなど牛肉の主要産地では、アジア方面からの出稼ぎ食肉加工労働者が、コロナ禍で大量に入国制限されてしまった。そのためコロナがやや収まり、経済が動き出しても、人手不足で供給が追いつかないのです。また、オーストラリアは数年前の干ばつの影響が、今も尾を引いています」
こうした影響に加え、ミートショックの大きな要因として挙げられるのが、中国の「肉爆食ブーム」だ。
中国の牛肉消費量は5年で2.3倍に急増
米農務省(USDA)の発表によれば、2014年における国別の牛肉輸入量ランキングで1位は米国、2位が中国だった。しかし、21年になると中国が米国の倍以上、約310万トンの輸入量で圧倒的1位に躍り出た。中国の牛肉消費量は、5年で2.3倍に急増している。「中国の景気が上がり、日本を訪れていた富裕層が、焼き肉店でタンなどのおいしさを知りました。しかし、コロナで訪日できなくなり、中国国内で続々と焼き肉店がオープン。どこも大盛況となっています」(同)
中国における肉爆食の背景には、日本での焼き肉体験があったわけだ。
「しかも、日本人にすれば高すぎると思う価格でも、平気でバンバン注文する金満ぶり。その結果、中国での爆食需要に合わせるように、世界の牛肉価格が高騰しているのです」(同)
これがミートショックの実態だ。ところが、まるで触発されたかのように、比較的安価で推移していた鶏肉相場が高騰し、今度はチキンショックが発生している。スーパーの食肉担当者が解説する。
「農畜産業振興機構がまとめたブロイラーの輸入価格を見ると、9月の骨付きもも肉の価格は、1キロ当たり206円で、4月の168円から38円も値上がりしています。前年同月比で比較しても25円も高くなっている。これからクリスマスにかけて、ローストチキンの需要が最も伸びる。そこに向けて、業者間でのローストチキン争奪戦が勃発し、価格高騰現象も起きつつある」
それだけではない。焼き鳥など庶民の味も、価格高騰の嵐にさらされる可能性が高いというのだ。
では、チキンショックの要因は何か。前出のフードアナリストが解説する。
休業が相次いだタイの鶏肉加工工場
「農林水産省によれば、日本は焼き鳥や唐揚げ用などに加工された鶏肉を毎年約50万トン(約2500億円)輸入している。タイはそのうち約6割を占める最大の輸入相手国だが、そのタイで8月、新型コロナの感染者が急拡大。感染確認が1日2万人を超え、鶏肉の加工工場でもクラスターが発生したのです」タイでは鶏肉加工工場の休業が相次ぎ、その後は労働者が離れて人手不足に陥った。タイ政府の統計によれば、8月に日本への輸出が急激に落ち込み、金額ベースで昨年比29%も減少したという。ミートショック同様、コロナ禍でチキンショックが生じたのだ
そのため、各輸入業者は慌ててブラジル産鶏肉などに切り替えているが、世界的な原油の値上がりやコンテナ不足の影響で、貨物が滞留する可能性が高い。日本到着までに最短で40~45日、遅れると約3カ月もかかるという。
先行きはどうなるのか。食肉の輸入業者は言う。
「牛肉の場合は、中国の仕入れ業者が高値で買い付けているため、当面、日本の商社などは太刀打ちできない。今後もこうした状況が続けば、牛肉は庶民の手が届かない存在になってしまう。一方、鶏肉もタイ工場の状況次第で、まだ見通しが立ちません」
ミートショック、チキンショックを踏まえ、日本は食糧自給を見直す大きな曲がり角に来ているのかもしれない。
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