
平成11年に埼玉県桶川市で起きたストーカー殺人事件をご記憶の方も多いだろう。女子大生(当時)が元交際相手の男と男の知人らに中傷ビラを撒かれた揚げ句、ナイフによって刺殺された事件だ。
『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド/1100円+税)は、その「実行犯」として服役中の男が、事件は自分が暴走した結果の出来事だったとつづった手記である。
やや込みいった事件なので概略を説明しよう。主な登場人物は元交際相手だった小松和人(風俗店経営者)、小松武史(和人の兄)、この本の著者である久保田祥史(元暴力団員)の3人。
事件後、和人は屈斜路湖で遺体が発見。自殺だという。殺害計画の首謀者とされた武史は逮捕後、一貫して無罪を主張したが、無期懲役の判決を受け服役中。
世間もマスコミも関心を失っている重大事件…
ところが、武史から殺害を依頼されたと供述した久保田が、それはすべてうそだったという手記を獄中で執筆、それがこの本だ。つまり、武史は殺害に関わっていない、冤罪だ…と主張しているのである。
武史は再審請求の際、自らが無罪である証拠として、久保田の手記を裁判所に提出したが、全く報道されていない。21年前の出来事だけに、世間もマスコミも関心を失っている。
だが、桶川ストーカー殺人は「ストーカー規制法」制定の契機となった重大事件であり、このまま風化させてしまっていいのだろうか…そうした問題提起を込めた1冊である。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
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