森永卓郎 (C)週刊実話Web
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成功するとは思えないデジタル田園都市国家構想~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

岸田文雄総理は11月11日、自身肝いりの「デジタル田園都市国家構想実現会議」の初会合を開いた。


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会議で総理は「デジタル田園都市を成長戦略の主要な柱」と位置づけるとともに、「時代を先取るデジタル基盤を公共インフラとして整備し、地方のデジタル実装を支援していく」と強調。「早期に地方の方々が実感できる成果を上げたい」と話した。


私は、デジタル田園都市をつくっていくことに大賛成だ。理由は3つある。


第1は環境対策だ。イギリスのグラスゴーで開かれた「国連気候変動枠組条約第26回締結国会議」(COP26)では、地球の気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えることが必要との目標で一致したが、石炭火力の廃止については合意が得られなかった。


しかし、私は石炭火力や原子力に頼らなくても、温室効果ガス排出ゼロは可能だと思う。それは、ライフスタイルを変えることだ。


暖房は、薪ストーブにする。電気は屋根の太陽光発電と蓄電池で賄う。乗用車も太陽光で充電する。すでに住宅メーカー各社が、1次エネルギー消費収支ゼロの「ゼロエネルギー住宅」を発売しているので、技術革新が進めば、自動車のエネルギーを捻出することは十分可能だろう。


ただ、ゼロエネルギー住宅ができない地域がある。それが都心部だ。タワーマンションには屋根がないので、ゼロエネルギーにできない。デジタル田園都市構想は、地方を活性化するためとされているが、直すべきは、地方ではなく大都市のほうなのだ。

竹中平蔵氏が委員に入っているようでは…

第2は災害対策だ。日本のアキレス腱は、災害に弱い大都市に政治や経済や文化を集中させたことにある。

再保険業務を行うイギリスのロイズとケンブリッジ大学の共同研究で、「世界の脅威リスク」ランキングが発表されている。2018年6月の発表によれば、東京が第1位で大阪が第6位。自然災害や人的災害における22の脅威が、国内総生産(GDP)へどれだけ影響を与えるのかを考慮し、その合計で全体の脅威リスクを決めている。


東京の脅威リスク要因は、大きい順に、①台風、②バブル崩壊、③石油ショック、④地震、⑤洪水、⑥パンデミック、⑦噴火、⑧サイバーテロ、⑨津波、⑩干ばつとなっている。東京に機能を集中させることのリスクは、誰が考えても明らかだろう。だから、デジタル技術を活用して、東京の機能を地方に移さなければならないのだ。


第3は「人間らしい暮らし」の回復だ。高度な分業で生産性を上げることに特化した大都市で、楽しい仕事ができている人は、ごくわずかだ。大部分の住人は、高い生活費を工面するために、過重労働を強いられている。豊かな自然と共存しながら、自分の思うように仕事ができる地方の生活のほうが、実は豊かな暮らしをしていることに気づくべきなのだ。


ただ、岸田総理の「デジタル田園都市国家構想実現会議」が、東京から地方に政治や経済の機能を移すことに成功するとは、とても思えない。委員の中に、タワマン住人の竹中平蔵氏が入っていることでも分かるように、大都市からの目線でしか物事を考えていないからだ。残念ながらデジタル田園都市は、理念だけで終わるだろう。