冨士眞奈美 (C)週刊実話Web
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女優・冨士眞奈美“定石通りの雀風でダブル役満炸裂”~灘麻太郎『昭和麻雀群像伝』

冨士眞奈美は俳優座付属養成所の第7期生で、同期の水野久美、大山のぶ代、露口茂、井川比佐志、田中邦衛らと演技の基礎を学び、その美貌で早くから注目を浴びていた。


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1956年にNHK連続ドラマ『この瞳』の主役に抜擢されデビュー。冨士はテレビが生んだ最初のスターで、現在では考えられない話だが、NHKの「専属女優」第1号である。同局のドラマ『輪唱』の3姉妹役で共演した馬渕晴子、小林千登勢と共に「NHK3人娘」と呼ばれ、清純派として人気を博した。


時代劇から現代劇、アクションからメロドラマと幅広い活動を続け、60年代からは音楽バラエティーの司会まで務めたが、彼女が大きな変貌を遂げたのは、70年にオンエアされたドラマ『細うで繁盛記』(日本テレビ系)であった。


ヒロインの新珠三千代を徹底していびる小姑の役を演じ、牛乳瓶の底のような近眼鏡をかけた外見と生地である静岡弁を強調したセリフは、視聴者に強烈なインパクトを与えた。


冨士の役柄は本来なら「憎まれ役」のはずだが、あまりのハマりぶりにお茶の間の人気を得て、これらをパロディーにしたテレビCMも制作されるほどだった。知的美女のイメージが強かった彼女が、30代に入って見事なイメージチェンジに成功したのである。


冨士は74年に脚本家の林秀彦と結婚し、女優業を一時引退。以後はCM出演や文筆活動をしていたが、84年の離婚を機に芸能活動を本格的に再開させ、その後も多才ぶりを発揮する。

大ファンだった巨人・川上野球の影響

岸田今日子(2006年に脳腫瘍による呼吸不全で他界)、吉行和子とは古くから親交が深く、3人でジャズピアニスト・山下洋輔の「追っかけオバサン」をしたり、一緒に旅に出かけたり、ユーモラスな交流関係が知られている。

また、黒柳徹子とはNHK専属時代からの付き合いで、『徹子の部屋』(テレビ朝日系)には番組開始当初から定期的に出演している。


その積極的な行動からすると、麻雀のほうも自己中心型に思えるが、意外なことに正統派である。俳優座養成所時代、先輩たちに教え込まれたオーソドックスな打法は、女性雀士に多い攻撃一本やりではなく、どちらかといえば守りに強い。


彼女は幼い頃からプロ野球の大ファンで、中でも巨人の川上哲治を贔屓にしていた。強打で知られる選手時代はもちろん、監督になってからの緻密な管理野球に強く惹かれ、次のように語っていた。


「みんなは『あんな地味な野球なんて、少しも面白くない』って批判するけど、私はあれが正解だと思うの。勝負であるからには、まず勝つことを最優先させるべきじゃないかしら」


冨士が川上ファンだと言うと、周囲からオジサンくさいと揶揄されたらしいが、自分の好み、信念は曲げなかった。麻雀が正攻法なのも、V9を果たした川上野球の影響なのかもしれない。


親友にして雀友でもある岸田が、おおらかで趣味的な雀風であるのとは対照的に、冨士は手に惚れることなく、三色も一通も眼中になし。目先のアガりで和了する。


冨士はリーチをかけるにしても、テンパイ即リーとはいかない。ヤミテンのほうがアガりやすい場合は、ポーカーフェイスでツモ切りを続け、他家からのロン牌をじっと待つ。まるで川上監督が、地道に1点を取りにいくのと同じような戦法ではないか。

アガってくださいと言わんばかりの配牌

そんな麻雀を打つ冨士ではあるが、若い頃に「字一色、大三元」のダブル役満を和了したことが、いまだに忘れられないらしい。

雀士の夢は「役満をアガることにある」という言葉がある。私の場合、タイトル戦のオーラスで、役満でなければ逆転トップになれないというケースなら、倍満のテンパイになろうと、トリプル(三倍満)になろうと、役満の手替わりになるまで真っすぐ勝負に向かう。


今年も最終回のオーラスで、逆転優勝したことが二度ある。一度目は、ツモり四暗刻でリーチをかけ、三萬と六筒のシャボ。アガり牌は三萬が1枚という状況だったが、流局寸前に三萬ツモで優勝している。


二度目は、ホンイツ、小三元のテンパイを崩して、1枚の白が重なるのを待ち、10巡目に白と九筒待ちでテンパイとなった。対面の親がリーチときて、2人の勝負。結果はリーチ者が白をツモ切りでロン、大三元で逆転優勝を果たした。


冨士が若い頃にアガった字一色、大三元というダブル役満。これとて、親で以下のような良い配牌を持ってこなければ、そう簡単にアガれるものではない。


【一筒、二筒、東、東、東、西、西、北、白、白、發、發、中、中】


この手ならば、打一筒か二筒で字牌を残し、当然、その間に白か發が出て来ればポンで筒子切り、次に中がアンコとなり、打北で發と西のテンパイ。發が出れば、字一色、大三元でダブル役満となる。


麻雀では時として、アガってくださいと言わんばかりの手が入ってくるが、こうした運勢を持っているのも、麻雀の才能の1つでもあるのだ。


(文中敬称略)
冨士眞奈美(ふじ・まなみ) 1938年1月15日生まれ。静岡県出身。俳優座付属養成所を経て、56年にNHK連続ドラマ『この瞳』の主役に抜擢されデビュー。女優業のほか司会なども務め、マルチタレントの先駆け的存在となる。随筆家、俳人としても活躍。
灘麻太郎(なだ・あさたろう) 北海道札幌市出身。大学卒業後、北海道を皮切りに南は沖縄まで、7年間にわたり全国各地を麻雀放浪。その鋭い打ち筋から「カミソリ灘」の異名を持つ。第1期プロ名人位、第2期雀聖位をはじめ数々のタイトルを獲得。日本プロ麻雀連盟名誉会長。