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東京一極集中は終わるのか?~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

総務省が9月に発表した「住民基本台帳人口移動報告」によると、東京都は3638人の転出超過となった。これで東京の転出超過は3カ月連続。これまで四半世紀にわたって続いてきた東京一極集中に、変化が起きていることは確実だ。

もちろん、新型コロナウイルスの感染拡大が、転出超過のきっかけになっているのは間違いない。問題はなぜ東京から人が出ていくのかである。

人口移動をもたらす最大の要因は、雇用機会の豊富さだ。全国の有効求人倍率は、新型コロナの影響で9カ月連続の下落を続けており、9月は1.03倍と1倍割れ寸前となっている。

その中で東京都の有効求人倍率は、0.89倍と全国で三番目の低さだが、1年前の東京都の有効求人倍率は、2.07倍と全国トップであった。働く場所を求めて全国から人が集まるというのが、東京一極集中の構造だったのだ。

ところが、新型コロナにより東京の雇用機会は、とてつもない勢いで失われた。コロナ禍の影響を大きく受けたのは、飲食やエンターテインメントなどの「繁華街ビジネス」だが、そうしたものが集中している東京で、仕事が急減するのは当然なのだ。

ただ、もし東京の求人減だけが人口流出の原因であるなら、コロナが収束すれば、再び東京一極集中に戻るはずだ。ところが、事態はそう単純ではない。

9月に東京から他府県に移動した人口は、全部で3万644人だったが、移動先は多い順に神奈川7389人、埼玉5918人、千葉4393人と、南関東3県が58%を占めている。

ところが、神奈川における9月の有効求人倍率は、0.87倍と全国二番目の低さで、東京を下回っている。埼玉と千葉の有効求人倍率も1倍を切っており、全国平均を下回っているのだ。雇用機会が人口移動の原因だとすると、南関東に多くの人口が移動している事実を説明できない。

今後の焦点は都心のバブルがいつ弾けるか…

私は、やはり新型コロナの感染拡大で、東京に見切りをつける人が増えているのではないかと思う。東京圏における通勤電車の混雑率からみるに、現時点でもおよそ3割の人が、リモートワークを続けていると考えられる。

リモートで仕事が済むのなら、なにも東京に住み続ける必要はない。ただ、いくらリモートと言っても、週に何回かは東京のオフィスに顔を出す必要があるだろう。それを考えると、さほど時間とコストをかけずに、東京に出向くことができる南関東3県に住めば、豊かな自然を享受できる上、東京ほどの感染リスクを負わずに済む。そう考える人が増えてきているのではないだろうか。

彼らは仕事を変えるわけではないから、南関東3県の求人倍率が低くても何の問題もないのだ。

東京の不動産業者の間では、郊外の時代は完全に終わったと言われてきた。都心に近い駅から徒歩10分以内でなければ、資産価値はないとされ、実際に郊外の住宅価格は、東京都心部と比べるとケタ違いの安値になっている。

私は今後、郊外の地価が上昇に転ずるとは考えていない。郊外の地価が本来の価格であり、東京都心の地価が高すぎるのだ。だから今後の焦点は、東京都心のバブルがいつ弾けるかになるだろう。

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