
周囲に緑深い山々が迫り、その谷間を流れる清冽な川。川沿いには人の営みが息づいているものの、少しもあくせくしたところはなく、のどかな時間が流れます。
ワタクシ、新潟県の山間部に位置する湯沢町を訪れておりまして、まさに〝ニッポンの山里〟といった風景を堪能しております。嗚呼、これが本来のこの地の顔なんだろうなぁ…。
そんなことを言っておきながら、ワタクシがいるのは天然の渓流から水を引き込んで造られた釣り堀『湯沢フィッシング・パーク』。詳しくは前号で説明しましたが、予定外の諸事情に遭遇してしまったため天然河川を諦め、お手軽に渓流気分が楽しめるこの施設に駆け込んだ次第であります。

さて、この施設ではイワナやヤマメ、ニジマスが放流されているのですが、とにかくニジマスが高活性。「もしかしたら結構スレているかも」という当初の不安をよそに、エサを入れればすぐにヒット! という釣れ具合です。これなら〝永遠の初心者〟を自称するワタクシでも楽しめます。
釣り座を移しながら釣り歩いておりますと、「やややっ!」。ある場所で鮮やかなパーマーク(小判模様)を持つ魚を見つけてしまいました。アイツは…ヤマメじゃねぇか。
ニジマスをかわしつつヤマメを狙う!
「魚に格を付ける」のは釣り人側の勝手な価値観ではありますが、外国から持ち込まれたニジマスより国内固有種であるヤマメをありがたいと感じる心持ちは十分理解できます。
群れるニジマスのなかにヤマメが1尾…。こうなると何としてもヤマメを釣りたくなってしまうのが釣り師の性というものです。とはいえ、これだけエサに好反応を示すニジマスをかわしつつ、1尾しかいないヤマメを釣り上げるのは容易ではありません。なんせワタクシは〝永遠の初心者〟ですからね!(自慢してどうする)
「言うは易く行うは難し」こんな格言がありますが、まさにそんな状況に苦戦を強いられます。エサの付いた仕掛けを落とす前にじっと魚の動きを凝視し、なるべくニジマスに気づかれぬようヤマメの近くにエサを落とします。んが、岩影に潜んでいたニジマスがものすごいスピードでビュ〜ッ! と泳ぎ出てエサをパクリ。う〜ん、なんとかならんものか…。
持ち帰れる魚の数には限りがありますから、策を講じねばなりません。色々と思案した結果、ヤマメから離れた位置へエサを派手目に着水させ、ニジマスが寄ってきたら食べる前に仕掛けを上げる作戦を試してみることにしました。エサに反応して近づくニジマスを誘導し、ヤマメの周りから引き離すのが狙いです。
試してみるもので、この一連を繰り返すうちにニジマスがいい具合に散開しました。頭いいな、オレ! ただ、ヤマメも見えなくなったような気が…。
とりあえずニジマスを散らすことができただけでもよしと考えて、あやしい岩影に仕掛けを入れて流します。
「ググググッ!」
すぐに竿に手応えが伝わってヤマメがハリに掛かってきました。やったぁ〜!

結局、運任せで放り込んだ仕掛けに掛かったわけですが、その前にニジマスを散らしておいたのは大正解。やっぱり頭いいな、オレ!
コクのある味にお酒が恋しい!
規定の持ち帰り尾数にはまだ余裕もありましたが、狙い澄ましてしとめたヤマメに満足したこともあり、竿を返却して魚焼場へ向かいます。釣りたてを焼いて食べられるのがこういった釣り堀の醍醐味ですからねぇ。
魚焼場に行くと、すでに炭火が起こされており、串に刺したヤマメを20分ほど火に当てます。ポタポタと落ちる水分が炭火に当たって蒸発し、それによって香ばしい煙が立ち上ります。もうこの匂いだけで酒が飲めそうです。

秋晴れの下、渇いた喉にビール(レンタカーを借りていたためノンアルで我慢)を流し込んで「クゥ〜ッ!」。その余韻が消えぬうちにヤマメの丸焼きをガブリ!
「クゥ〜ッ!」
ニジマスと比較して強い旨味が感じられ、そこはかとないコクが口の中に広がります。まあ、どちらも清冽な流れから釣り上げ、自然に囲まれて炭火焼きでいただくわけですから美味しいに決まってますな。
それにしても、施設内の清らかな流れを見ていると、シーズン終盤とはいえもう少し清流での釣りを続けたくなってしまいます。
まだお昼すぎだし、どこかで延長戦をやっていこうかしら…?
三橋雅彦(みつはしまさひこ)
子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。