ハロウィーンの夜に起きた、京王線の車内での刺傷事件。俺は、あの事件に対する報道を見聞きしながら、これは危ないなって思ったんだよ。
こういうタイプの犯罪は、模倣犯が出る恐れがあるからね。
案の定、地下鉄や新幹線などでも、車内での無差別襲撃事件が続出してしまった。
そもそも、京王線の犯人も、8月に小田急線で起きた車内切りつけ事件を真似たと言っているらしい。
こうした事件の報道は必要だけど、犯人が準備した道具や、その方法まで詳細に明かすのはよくない場合もあると思う。
動機についても、同じように世間を騒がせてやりたいと思ってる輩たちを共感させてしまうかもしれないからね。
この京王線の犯人は、『バットマン』に出てくる悪役「ジョーカー」の格好をしていた。時期的に、ただのコスプレだったのかもしれないけど、2019年に公開された映画『ジョーカー』からの影響もあるんじゃないかな。
あの映画は、あくまでも架空の悪役の誕生を描いたものではあるけど、その動機がリアルだったし、貧困や格差社会の理不尽さが描かれていて、殺人やテロ行為を起こしても仕方がないと思わせるものがあった。
映画では、電車内での暴力や殺人も描かれているから、犯行のヒントになったのかもしれない。
今後は、電車の安全性についても議論されていくと思う。駅での荷物検査を義務化したり、車内パトロールを強化するとかね。
でも、安全性のことを言わせてもらえば、毎日パンク寸前の満員電車を運行していることが一番の問題であり、リスクだよ。
抜本的な安全性確保を優先してほしい
他の乗り物や公共施設などの安全基準は、消防法に基づいてどんどん厳しくなっているのに、電車だけはいつまでも定員オーバーが見直されない。
一応、電車の定員は「サービス定員」と呼ばれるもので、それ以上乗せても危険ということではないらしいけど、駅員が押し込むくらいギュウギュウ詰めの車内で暴れるやつが出たら、ますます逃げ場がなくて被害が大きくなるし、対処も救出も難しい。
だからこそ、電車移動の安全性を確保するには、まずは本気で満員電車を解消することだと思う。
今回の報道では、犯人は独りなんだから、その場に居合わせた人たちも逃げるだけじゃなく立ち向かえ、という意見もあった。
確かに腕に覚えがあって、暴漢やテロ行為に対処する心得のある人ならいいよ。でも、ほとんどの人はどう立ち向かえばいいか分からないだろうから、それは逃げたほうがいいと思う。
救急救命も、応急処置の方法やAEDの使い方が分からなかったら、勝手な知識で行動をせず、周囲に声をかけて助けることが出来る人を探したり、救急車を呼ぶというのが基本方針。
だから、暴漢に対しても、完全に対処できる知識と実力があって、さらに運よくその場に同じレベルの人がいて、タッグやチームを組めるような状況でないと、立ち向かうのは難しいだろうね。
いずれにしても電車内テロに対しては、個々の危機意識を高めることも大事だけど、それ以上に抜本的な安全性確保を優先してほしいね。
蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。