エンタメ

競馬界“5G=5爺”「武豊」「柴田善臣」「横山典弘」「熊沢重文」「小牧太」奮戦記

武豊
武豊 (C)週刊実話Web

現在、日本競馬界に〝5G(5爺)〟と呼ばれる5人の騎手が君臨していることをご存じだろうか?

年長順に柴田善臣=55歳、小牧太=54歳、横山典弘=53歳、熊沢重文=53歳、武豊=52歳の50代騎手だ。

サラリーマン社会と異なり、競馬界ではそろそろ引退する年代だが、5人の騎手は中高年の夢を乗せ、体を張って毎週レースに出場している。そんな5Gの生き様に迫った。

11月14日、午後3時40分すぎの阪神競馬場(兵庫県宝塚市)で、牝馬ナンバーワンを決めるGⅠエリザベス女王杯が行われた。緊急事態宣言が解除されたこともあり、久しぶりに有観客で開催されたビッグレースに3人の5Gジョッキーが顔をそろえた。

横山=クラヴェル3着(9番人気)、武=デゼル8着(8番人気)、柴田=コトブキテティス13着(16番人気)が出場。共に人気薄ながら熟練の騎乗技術を発揮し、大いに見せ場をつくった。レース後、引き上げてくる騎手に中高年から「5G、若いもんに負けるな」と歓声が飛んだ。

5Gと呼ばれるようになったゆえんは、テレビ東京の競馬番組。調教師に転身した同期の蛯名正義との対談で、武が「僕ら5Gと呼ばれているんです」と自虐的に話したのがきっかけだった。5Gの騎手が全員そろってGⅠに騎乗したことはまだないが、50代ジョッキーの活躍は目覚ましいものがある。

まずは競馬をしない人でも名前を知っている武は、1969年3月、京都府出身。87年のデビューから、これまでJRA(日本中央競馬会)リーディング1位が18回、35年連続して重賞勝利など数々の記録を保持している。

ホースマンなら誰もが憧れる日本ダービーは、98年のスペシャルウィークを皮切りに、99年のアドマイヤベガ、2002年のタニノギムレット、05年のディープインパクト、13年のキズナと歴代最多の5勝を挙げている。近年は歌手、北島三郎の持ち馬、キタサンブラックで天皇賞・春(16年、17年)、天皇賞・秋(17年)や有馬記念(17年)に勝利。落馬によるスランプから脱し、JRAの第一人者に君臨している。

『凱旋門賞』を勝ちたいという執念

中央GⅠ通算77勝を含む重賞345勝の金字塔を打ち立て、10月24日には歴代最多、史上初の通算4300勝を達成。武は「あくまで1つの通過点です。これに満足することなく、勝ち星を積み重ねていきたいと思います」とコメントした。

重賞12勝を含む通算588勝を挙げている中堅ジョッキーの柴山雄一は、武の偉大さをこう語る。

「後方から行った馬を図ったように、ゴール板でハナ差きっちり差し切るなど勝負勘がすごい。全然衰えは見えないですね」

功なり名を遂げた武が35年近く乗り続けているモチベーションは、フランス・パリロンシャン競馬場で毎年10月の第1日曜日に開催される世界最高峰のレース『凱旋門賞』を勝ちたいという執念である。

武は今でも「当時、世界で一番強いと確信していたディープインパクトが3着(のちに失格)に終わった06年の凱旋門賞の悔しさを晴らしたい」と周囲に話しており、50代での快挙達成に強い意欲を見せている。仮に凱旋門賞を勝てば、公営競技初の国民栄誉賞が現実のものになるだろう。

武より2期上の競馬学校1期生、現役最年長ジョッキーが柴田善臣だ。66年7月、青森県生まれ。ヤマニンゼファーの安田記念(93年)、天皇賞・秋(93年)などGⅠ9勝を含め重賞96勝、現役4位の2314勝を挙げている〝いぶし銀騎手〟だ。

特に93年10月の天皇賞・秋は、田中勝春が騎乗したセキテイリュウオーとの500メートルに及ぶ直線のたたき合いに、「痺れた」と振り返るオールドファンも数多い。荒れた馬を御す「折り合い」の付け方で、一目置かれる存在でもある。

柴田は本誌に対し、朴訥に本音をもらす。

「周りが5Gと言って騒いでいるだけで、特に何を言われようと気にしていない。やりたいことをやっているだけ。一鞍一鞍を大事に乗っている。重賞に限らず未勝利戦や条件戦だろうが、同じことですよ」

型破りな騎乗が魅力の横山典弘

さらに柴田は、誠実に話してくれた。

「そりゃ55歳になれば、体力は衰えガタがきている部分もある。だけど、いざレースになれば、プロのジョッキーですから全力を尽くしています。豊もノリ(横山)も俺も、お互い元気に長く乗っていきたいし、乗ってもらいたい」

その義理固い東北人気質で日本騎手クラブ会長を長く務め、実直な性格とは裏腹の騎乗技術で、中央競馬界を引っ張ってきた。

今年8月8日には、レパードステークスをメイショウムラクモで勝ち、JRAの最年長重賞勝利を達成。「これからも騎乗依頼を受けた一馬一馬の重みを大事にして、勝負に臨みたい」と、あくまでも現役ジョッキーにこだわる姿勢を示している。

前出の柴山が「レースで観客を酔わす魅せる競馬、味のあるレースができる天才肌のジョッキー」と絶賛するのは横山だ。この言葉通り、横山の騎乗ぶりは武や柴田に比べ、型破りなところが魅力だ。

先行して持ち味を発揮する馬をあえて最後方から競馬させたり、逆に後方から差し切りが得意な馬を、わざと先頭に立たせ、そのまま逃げ切ったりする騎乗ぶりは、柴山も「魅せる競馬で勝つ姿はすごく格好いい。とても真似できないけど、お手本にしたい」と賛辞を惜しまない。

記録もすごい。現役2位の2860勝をはじめ、メジロライアン(91年、宝塚記念)、サクラローレル(96年、天皇賞・春、96年、有馬記念)、カンパニー(09年、天皇賞・秋、09年、マイルチャンピオンシップ)など、GⅠ27勝を含む重賞181勝を挙げ、日本ダービーもロジユニヴァース(09年)、ワンアンドオンリー(14年)で2勝している名手だ。

マスコミ嫌いでも知られる横山だが、今年は三男、横山武史の大躍進に「よくやっている」と笑顔を絶やさない。

“競馬界の大谷翔平”二刀流の熊沢重文

「まさに鉄人。鋼のメンタルで実績を残している」(柴山)と評するのは〝競馬界の大谷翔平〟こと、二刀流ジョッキー、熊沢重文だ。二刀流とは平地、障害レースどちらも騎乗することで、トップジョッキーでは稀有な存在だ。

デビュー3年目の88年にコスモドリームでオークスを制し、満20歳3カ月で当時の最年少GⅠ勝利を達成。91年には13番人気のダイユウサクで有馬記念をレコード勝ちし、全国区の実力派として認知されるようになった。

「障害はジャンプの連続で、落馬の危険性が平地よりも格段に高く、怪我をしやすい。技術面でも違うものを要求される」(スポーツ紙デスク)

11月13日に行われた重賞、京都ジャンプステークスではケンホファヴァルトに騎乗して、積極策で押し切り勝利し、右手を突き上げ吠えた。これで自身の持つ障害競争の歴代最多勝記録を256勝に更新。通算1050勝、GⅠ4勝を含む重賞33勝とした。

最後に紹介する小牧太は、鹿児島県出身だが、地方競馬の兵庫競馬で活躍。94年、96年には地方競馬の全国リーディングを獲得した。04年に36歳でJRAに移籍すると、以後は通算908勝、GⅠ2勝を含む重賞34勝を飾っている。

初のGⅠ制覇となった08年の桜花賞をレジネッタで制した際、勝利者インタビューで泣きながら、「今日は吐くまで飲むぞ!」と絶叫し、話題になった。地方競馬出身だけに馬を追う姿は泥くさく、激しいアクションで鞭を入れ、玄人筋の競馬ファンの人気がある。

以上、5Gそれぞれ持ち味が違うオヤジ騎手だが、共通するのは「自然体」(柴田)でレースに臨む姿だろう。現在のリーディングジョッキーは、4年連続でフランス人のクリストフ・ルメール。そして、生きのいい若手や安定した中堅に騎乗依頼が殺到する中、5Gが必ずしも人気馬に乗れる保障はない。しかし、あくまで1着を目指すプロフェッショナルな姿勢を貫いている姿に、中高年のファンは酔いしれるのだ。

5Gがいつまで現役を続けるか分からないが、おそらくそう遠くない時期に鞭を置く日が来るだろう。それまでは彼らの華麗な騎乗を目に焼き付けておきたい。

あわせて読みたい