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10万円の給付策は目的のすり替え~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

岸田内閣の経済対策の骨格が見えてきた。最大の焦点だった国民への現金給付は、公明党案に沿う形で、所得制限は設けるが18歳以下に10万円を支給する方針という。

しかし、これは明らかにおかしな政策だ。

もともと今回の現金給付は、コロナウイルスのまん延で困った人たちを救うためのものだった。コロナ禍で厳しい状況に追い込まれたのは、国民全員なのだから、私は全国民に一律給付が正しいと思う。だが、百歩譲って生活困窮者だけを救うにしても、18歳以下というやり方は正しくない。

例えば、独身者はそもそも対象にならないし、シフトを減らされた非正社員やリストラされて失業した人、あるいは仕事が激減しているフリーランスなども、給付の対象から漏れてしまうからだ。

18歳以下という限定は、今回の現金給付を子育て支援の一環としたものだとみられるが、そもそも子育て支援は一時金でするものではなく、継続的な予算措置で行う課題だ。それに子育て支援であるならば、なぜ大学生を対象から外したのか理解に苦しむ。

自分自身の経験で言っても、子育てで一番カネがかかるのは、子供が大学に在学中のときだ。私立大学なら年間授業料が100万円を超えることが多い。だから、授業料を親だけでは払えず、学生自身のバイト代で補填しているのだが、そのバイトもコロナで激減した。結果、大学を退学せざるを得なくなった学生も、かなりの数に上る。

18歳超を対象から外したのは、高等教育機関への進学者を「ぜいたく」と判断したのかもしれない。しかし、それも認識違いだ。現在、高等教育機関全体への進学率は84%で、大多数の高校生が、高等教育機関に進学しているからだ。

マイナンバーは“国民総背番号制”への手立て

なぜ、こんなおかしなことになってしまったのか。1つの疑念は、政府が国民の所得を把握していない可能性だ。アメリカはこれまで3回にわたって、合計36万円の現金給付をしてきた。もちろん所得制限はあったが、税務当局が持つ所得データを活用して、所得制限をクリアした国民には申請を待たずに給付した。

ところが日本の場合は、年末調整や確定申告のときにマイナンバーを書いているにもかかわらず、所得データがリンクされていないのではないか。国民の所得を管理できていない以上、早期給付のためには、分かりやすい基準で給付対象を絞らなければならない。その苦肉の策として、18歳以下という縛りが出てきたのではないだろうか。

また、政府は18歳以下への給付とは別に、マイナンバーカードの所有者に最大2万円分のポイントを付与する予定だという。マイナンバーカードの交付枚数は、今年3月1日時点で3344万枚なので、これだけで1兆円を超える予算が必要となる。これこそコロナとは縁もゆかりもない政策だ。

結局、政府はコロナ対策の名を借りて、国民を総背番号で管理する手立てを充実させることに、大きな予算をつぎ込もうとしているのだろう。

コロナで経済的に苦しむ人たちがたくさんいる中で、こんな暴挙が許されてよいのだろうか。これまでのコロナ対策は、小出しで右往左往するばかりだったが、岸田内閣も同じ轍を踏む可能性が高まっている。

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