なぜ野党共闘は不発だったのか~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』
先の衆議院選挙は、自民党が議席を減らしたものの、単独で絶対安定多数を獲得し、与党の圧勝に終わった。
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新型コロナの感染拡大で、政府のコロナ対策が後手後手に回り、その結果、首都圏では医療崩壊を招いて多くの人命が失われた。また、小出しの経済対策によって、国民生活は疲弊し、廃業した飲食店も多かった。国民の多くが政権に問題を感じていたはずだが、批判は必ずしも野党への投票に結びつかなかった。
本来なら野党にとって、今回の選挙は政権交代の大きなチャンスだった。野党5党の間で、衆院選で初めて候補者調整が実現したからだ。全289の選挙区のうち、75%を占める217の選挙区で野党5党が候補者を一本化し、実際、そうした選挙区の多くで僅差の激戦となった。ただ、野党があと一歩勝利に結びつかなかった最大の理由は、明確な統一政策を打ち出せなかったからだと、私は考えている。
また、今回の選挙では消費税が与野党間における最大の争点となり、与党は消費税率10%維持を打ち出し、野党は5%への引き下げを打ち出した。しかし、消費税の引き下げについては、野党内で大きな温度差があった。
れいわ新選組は「消費税撤廃」、日本共産党は「消費税5%への引き下げ」、国民民主党は「経済回復までの消費税率5%への減税」、社会民主党は「3年間消費税ゼロ」、立憲民主党は「消費税率5%への時限的な減税」だった。れいわ新選組と日本共産党を除くと、消費税減税は、あくまでも一時的措置だったのだ。
“中途半端”が否めない時限的減税政策
もし、野党共闘が「消費税5%への恒久減税」を打ち出して与党と対決すれば、選挙は非常に分かりやすい対立構造となり、国民の審判の結果も違っていただろう。その点については、野党第1党の立憲民主党の責任が重大だと思われる。そもそも、時限的減税という中途半端な政策では、国民が信用しない。民主党時代に「消費税は上げない」と言って政権を奪取し、結局、自民・公明と3党合意で消費税増税に突き進んだ前科があるからだ。もちろん、今回の時限的減税という形で消費税減税に踏み込めただけでも、立憲民主党にとっては大きな進歩である。党内には、消費税引き上げの首謀者である野田佳彦元総理をはじめ、財政緊縮派が半数近く残っているからだ。ただ、それくらいのレベルでは政権に届かない。枝野幸男代表は、党内緊縮派の離脱を覚悟してでも、明確な政策を打ち出すべきだったと思う。それくらいの覚悟を決めないと、政権奪取は実現しないだろう。
私の最大の懸念は、枝野代表自身が、消費税減税に関して腑に落ちていたのかということだ。もっと言えば、野党共闘を進めるために妥協はしてみたものの、本音では消費税減税をやりたくなかったのではないだろうか。
その証拠に枝野代表は、選挙期間中の演説において「まっとうな政治を取り戻す」ことを全面的にアピールし、安倍政権以降の政治腐敗を批判したが、少なくとも私が知る限り、最大の与野党対立である消費税について、強くアピールすることはまったくなかった。
やはり野党のリーダーが反緊縮路線に転じない限り、日本の政治や経済が、このまま転落し続けるというシナリオしかあり得ないのかもしれない。
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