(画像) polkadot_photo / shutterstock
(画像) polkadot_photo / shutterstock

女優・宮下順子“負けて負けて…真の強者へと成長”~灘麻太郎『昭和麻雀群像伝』

日活ロマンポルノの看板女優として数多の作品に出演し、その後は一般作品でも唯一無二の世界観を披露した宮下順子。


【関連】女優・森光子“モットーは明るく楽しく小気味よく”~灘麻太郎『昭和麻雀群像伝』 ほか

その1970年代から80年代にかけての傑作を厳選してみた。


ロマンポルノ初期の代表作で、遊びの限りを尽くした中年男と初見の芸者との濡れ場が描かれた『四畳半襖の裏張り』(73年/監督・脚本:神代辰巳/日活)、『四畳半襖の裏張り しのび肌』(74年/監督:神代辰巳/日活)は常識を超えた文芸ポルノとして、今なお名高い。


『赫い髪の女』(79年/監督:神代辰巳/日活)は、現代日本文学の到達点を示した中上健次『赫髪』を映画化した秀作。ダンプカーを運転する男と道で拾った女との性愛の日々を描き、閉塞した時代性と男女の性の真髄に迫った。


宮下の傑作は枚挙にいとまがないが、それはともかく私が彼女と出会ったのは75年ごろ、ある月刊誌での対談だった。


灘「風の便りで耳に入ってきたのですが、宮下さんは麻雀を断とうと思っているそうですね」


宮下「ええ、負け続きだから、今年に入って一度も勝っていないし、この間も監督さんたちとやって、点数で70万点も負けて…」


灘「麻雀を覚えて何年ぐらいですか?」


宮下「日活に入ってから打ち始めたので、まだ3年ぐらいかな」


灘「その時期は、ちょうど麻雀の面白さと怖さの両面を知って、誰でも負け始める頃ですよ」


宮下「覚え始めの頃は毎日のようにやっていて、結構勝っていました」


灘「また覚え始めの頃のように、攻め麻雀で行けば勝てますよ。相手の待ちが分からないのに、ただオリているから負けるのです。仕事が順調なのだからツキはあります。自信を持って麻雀を打っていれば、必ず勝てる日が来ますよ」


宮下「最近の私は、やる前からどうせ負けると思っちゃうからいけないのね」

親のリーチに強気の押し

月日は流れて、それから15年後、私と宮下は雑誌の企画で対局することになった。その間も彼女とは会っていたが、麻雀を打ちながら血液型を論じる女性雀士は多い。宮下も、そんな一人である。

「麻雀プロの人ってO型人間が多いのよね。灘さんがそうでしょう。小島武夫さんもそうですよね。プロではないけれど、麻雀が強かった漫画家の福地泡介さん、あの人もO型だって言っていたわ」


宮下に言わせると、O型人間は情け無用の麻雀を打つだけに、プロ向きなのだという。ちなみに宮下はB型で、結構しぶとい麻雀を打つ。


さて、親の私が6巡目。


【一萬、二萬、五萬、七萬、七萬、一筒、二筒、七筒、八筒、九筒、七索、八索、九索/ドラ=四萬】


この手に一筒を引いて打、七萬、九萬を引いて打、五萬、三萬を引いて打、二筒でテンパイ。


【一萬、二萬、三萬、七萬、九萬、一筒、一筒、七筒、八筒、九筒、七索、八索、九索】


カン八萬待ちで純チャン、三色のハネ満確定の手でリーチをかけた。


このときの捨て牌は、以下の通り。


【西、北、四筒、八索、九索、七萬、五萬、リーチ=ニ筒】


チャンタ系らしからぬように仕掛けてあるし、スジで釣り出せる五萬も切ってある。普通ならリーチのほうが出やすいのだが、どこからもなかなか出てこない。宮下からも…。


では、宮下はどんな手をしていたのかというと、配牌から流れは順調で、まず字牌から切り出し、タンピン狙いの手づくり。〝麻雀はピンフに始まりピンフに終わる〟というセオリーをよく心得た手づくりで、7巡目にはイーシャンテン。


そして、親の私のリーチに対しても、生牌のダブ東を切り出し、次にはドラ筋の一萬切りと、かなり強く押してくる。12巡目には待望のカン三萬を引いて、二、五筒待ちテンパイ。


〝カンチャンを引いての両面待ちは即リーチ〟の格言があるのだが、宮下はヤミテンで二筒の出を待つ。二筒ならタンピン、ドラ1に、イーペーコーも加わり、満貫になると読んでのことだったのか。

当たり牌を止めた女優の勘

【ニ萬、三萬、四萬、五索、五索、六索、七索、八索、二筒、三筒、三筒、四筒、四筒】

しかし、そんな手を持ちながら宮下は、14巡目に八萬をツモってきたところで、これをピタリと止めた。八索切りのテンパイくずしに出てきたのである。


「何か当たりそうな予感がしたのよねぇ」


用心深さゆえの読みだったらしいが、さすが女優の勘は鋭いと言える。かつて、麻雀を断とうとしていた宮下に、私は次のように教えていた。


「リーチとこられても、オリずに勝負に向かえ。打ち込んで痛さを知り、捨て牌から読みを知ればいい」


しかし、その後に宮下の成長を知り、私はさらなる教えを授けていた。


「リーチとの勝負のとき、ツモってきた牌に嫌な予感がしたときは、その牌は打ってはならない」


一見、矛盾しているようだが、その段階に応じてアドバイスも変わってくるのである。


麻雀はキャリアを積み重ねることによって、さらに強くなっていく。この日の麻雀で、宮下は真の実力を発揮したのだ。


(文中敬称略)
宮下順子(みやした・じゅんこ) 1949年1月29日生まれ。東京都出身。1971年に女優デビュー。匂い立つような色気と芯の強さ、知性あふれる演技で数々の傑作に出演した日活ロマンポルノの代表的女優。並行して一般映画、テレビドラマでも広く活躍した。
灘麻太郎(なだ・あさたろう) 北海道札幌市出身。大学卒業後、北海道を皮切りに南は沖縄まで、7年間にわたり全国各地を麻雀放浪。その鋭い打ち筋から「カミソリ灘」の異名を持つ。第1期プロ名人位、第2期雀聖位をはじめ数々のタイトルを獲得。日本プロ麻雀連盟名誉会長。