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蝶野正洋『黒の履歴書』~プロレスラーにケガはつきもの

蝶野正洋
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

今年の新日本プロレス「G1クライマックス」の優勝決定戦が予想外の結果となった。

過酷なリーグ戦を勝ち上がり、決勝に駒を進めたのはオカダ・カズチカ選手と飯伏幸太選手。白熱した試合が展開していたが、25分すぎに飯伏選手がコーナーから放った飛び技に失敗、リングに激突して右肩を脱臼してしまう。無念のレフェリーストップで、オカダ選手が優勝となった。

プロレスの試合にケガはつきものだけど、G1の決勝という大舞台でのアクシデントは飯伏選手はもちろん、オカダ選手にとっても悔しかったんじゃないかな。

俺も試合中に大ケガをしたことがある。アメリカのWCWに遠征していた時、スタジオに観客を入れて行うテレビ収録マッチがあってね。リングに立った時に、マットの感触が日本とは違うなというのが気になったんだけど、試合に臨んだ。

俺の対戦相手は150キロくらいある大型の選手で、抱え上げてマンハッタンドロップでヒザに落としたら、そいつの全体重が俺の足首にかかってしまった。

あらぬ方向に折れ曲がった自分の足首を見て、「これはやってしまったな」と思ったけど、試合は最後まで成立させないといけない。もうなりふり構わずSTFを決めて、ギブアップを奪った。リング上で勝ち名乗りを受けて、自分の足で帰ってきたけど、あれはレフェリーストップされてもおかしくなかったと思うね。

試合の直後は、いい試合が出来なかった悔しさよりも、足首の痛みでのたうち回ってた。でも、だんだん回復してくると、後悔が出てくる。だから、飯伏選手もケガが治るまでは痛みとの戦い、その後に試合で失敗した悔しさとの戦いになるんじゃないかな。

大きな失敗をしても次の成功につながればいい

俺が試合で失敗したと思ったのは、これもアメリカでやったリック・ルード戦だね。リックとは第2回G1クライマックスの決勝で対戦して、俺が勝った。この年のG1王者には、NWAのベルトも与えられることになっていて、俺は第79代NWAチャンプとしてアメリカに乗り込み、リックと再戦することになった。

アメリカで用意された舞台はPPVのビッグマッチで、周囲の期待も大きかった。ところが試合が始まると、どうにもスイングしない。リックが地元の観客にいいところを見せたかったのか、俺に張り合うような地味な展開が続く。客席からはブーイングが起こって、試合は盛り上がらずに終わってしまった。

ドレッシングルームに戻ってきて、俺はもうアメリカには呼ばれないな、とガックリきたね。でも、またチャンスがやってきた時には、絶対にいい試合をやってやるとも誓った。言い方を変えれば、俺はこの時の挫折があったからこそ、後にアメリカでブレークすることができて、nWoブームにつながったと思ってる。

飯伏選手も腐らずに、ここが巻き返しのチャンスだと前向きにとらえてもらいたいね。いっそ、グレてヒールに転向してもいいかもしれない。「会社が俺を酷使するからケガしたんだろ!」と噛みつくとかね。

サラリーマンも同じだよね。会社で大きな失敗をしても、それが次の成功につながればいい。簡単に巻き返せないほどの失敗だったら、会社を辞めちゃえばいいしね(笑)。

蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。

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