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30年前の日本を彷彿させる中国~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

原油価格の急騰で、ガソリン代や電気代、ガス代などの生活物価が上昇し、消費者から悲鳴が上がっている。そのためインフレへの警戒感が高まっているが、私は、いずれ原油価格は暴落するだろうとみている。

いまの原油価格は、投機資金がつくり出したバブルだからだ。

原油価格の基準となるWTI先物市場を動かしているのは、ほとんどが投機資金だ。だから、実際の需給を通り越した極端な値付けがなされている。昨年4月には、WTIの価格がマイナスになった。このことが、マネーゲームが横行している何よりの証拠だろう。

また、原油価格だけでなく、株価や大都市の不動産、金、小麦、牛肉、材木、そしてビットコインまで、投機対象の商品が軒並み高値になっている。投機が可能な商品が一斉に値上がりするというのも、バブル期の大きな特徴だ。

ただ、相場は実態とあまりにかけ離れ、バブル崩壊の兆候はあちこちに現れているが、崩壊の引き金となるのは、中国経済かもしれない。日本のバブル崩壊直前と、いまの中国経済がとても似通っているからだ。

中国の不動産大手「恒大グループ」は、借金をどんどん増やす形で、積極的な不動産投資を行ってきた。不動産投資をすれば、保有不動産が値上がりし、さらに借り入れを増やすことが可能になる。その中で大規模リゾート開発など、さまざまな「バブリー」施設の建設を続けてきたのだ。

しかし、その恒大グループは、いまや社債の金利が支払えず、経営危機に瀕している。原因は、不動産価格の高騰を問題視した中国政府が、不動産融資を規制したからだ。

歴史は繰り返すというが…

日本でも1990年3月に、当時の大蔵省が「総量規制」と呼ばれる行政指導を行い、銀行に不動産向け融資の伸び率を貸し出し全体の伸び率以下に抑えるように求めた。これが不動産業界の資金繰りを追い詰めることになったのだ。

そして中国は、10月23日に一部都市を対象に5年間、不動産税を導入することを決めた。中国では、土地はすべて国家の所有であり、土地そのものを購入することはできないが、土地の使用権を国家から買う形になっている。そのため、日本のように固定資産税をかけることをしてこなかったが、今後は、使用権に税金をかけることを試験的に始めたのだ。

日本も91年5月に地価税法が施行され、固定資産税に加えて、地価税が課せられることになった。ただし、1000平米以下の住宅地や平米3万円以下の土地を非課税としたほか、10億円の基礎控除が設けられたことで、結果的には大都市に大規模不動産を持つ大企業だけが課税対象となった。中国の一部地域への不動産税導入と、事実上、同じことを日本はやったのだ。

もちろん、そうした強い対策が、その後の「失われた30年」をもたらしたのだが、中国は日本の歴史を徹底的に分析していると言われ、急激なバブル崩壊には至らない可能性もある。ただ、これまでの地価上昇をバネにした急激な開発投資の拡大が、終焉を迎えることには変わりがない。

バブル期、日本は世界第2位の経済大国だった。いま中国は世界第2位の経済大国だ。世界2位の国が、バブル崩壊の引き金をひく。歴史は繰り返すというが、いま真剣に考えるべきは、バブル崩壊後の対策である。

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