エンタメ

PCR検査はやはり利権だった!~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)実話Web

ソフトバンクグループが唾液によるPCR検査業務を本格的に開始したと発表した。検査は、7月に設立した子会社の「新型コロナウイルス検査センター」が、千葉県市川市の「東京PCR検査センター」で行う。

ソフトバンクグループは、これまでも国立国際医療研究センターと協力して、従業員や関係者、福岡ソフトバンクホークスの選手などを対象に唾液PCR検査を行ってきており、その検査対象を希望する自治体や法人に広げた格好だ。

ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、会見で「この事業は利益を目的としていない。安心して経済を再稼働していくためにも、安価で簡単な検査は有益だ」と、社会的使命であることを強調した。

実のところ孫氏の発表には、前哨戦があった。3月11日に〈新型コロナウイルスに不安のある方々に、簡易PCR検査の機会を無償で提供したい。まずは100万人分。申込方法等、これから準備〉とツイートしたのだ。

検査を受けたいのに受けられない人が多いから――という善意だったのだが、このツイートに批判が殺到した。そんな大量の検査をしたら、病院に軽症患者が殺到して、医療崩壊が起きるというのが批判の主な理由だった。結果、世間のあまりの批判の多さに、孫氏は提案を取り下げてしまった。

しかし、孫氏は諦めていなかったのだ。今回、センターが行うPCR検査の能力は1日あたり1万件で、東京都の検査能力を超えている。しかも、すでに100万回分の検査キットを確保しているという。これまでずっと「PCR検査の拡大には試薬が不足していて、すぐには対応できない」と言われてきたが、孫氏は政府の説明が嘘だったことを図らずも実証したのだ。

医療界に存在するPCR検査の利権に挑戦した孫氏の熱意

そして、もう一つの嘘も分かってしまった。それは「PCR検査には大きなコストがかかる」ということだ。私は当初から怪しいと思っていた。というのも、中国の武漢市は5月14日から19日間で、市民990万人に対するPCR検査を実施した。それにかかった費用は136億円だったという。

つまり、1人あたりの検査費用は1374円だ。もちろん、武漢では10人前後の血液を混ぜて、まとめて検査する方法が採られており、それだけコストが削減されてはいる。だが、それにしても日本の自由診療によるPCR検査の3〜4万円という費用が、とてつもなく高いことは明らかだと思ったのだ。

その疑念を今回のソフトバンクのPCR検査が解き明かしてくれた。検査費用は配送料と消費税を除いて、1件あたり2000円と発表されたのだ。

これだけの費用で済むのであれば、例えば、感染が深刻な東京23区の昼間人口全員に検査をかけたとしても、費用はたったの240億円にすぎない。これまで国がコロナ対策に計上した補正予算は57兆円にものぼるのだから、240億円など取るに足らない金額なのだ。

私は、東京23区の昼間人口に対する全員検査を実施し、陽性者を隔離するだけで新型コロナを終息させることが可能だと考えている。ところが、ソフトバンクの快挙をほとんどのメディアは大きく取り上げていないのだ。

医療界に存在する利権に挑戦した孫氏の熱意を、国民はもっと評価すべきではないだろうか。

あわせて読みたい