自由民主党本部 (C)週刊実話Web
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岸田政権“身内”にまさかの敵…「単独過半数割れ」危機!

衆院解散前の10月13日夜。政局の芽は既に顔をのぞかせていた――。


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「選挙に出る二階さんの激励だよ。河野、石破、進次郎の3人には将来に備えてほしいという話もしたな」


東京・赤坂の日本料理店『津やま』では、自民党の二階俊博前幹事長を小泉純一郎元首相、山崎拓元副総裁、中川秀直元官房長官の3人が囲んでいた。宴の後に山崎氏が店の前で記者団に語ったのが、この言葉だ。


会合では何が話されていたのか。関係者が明かす。


「24日投開票の参院静岡補欠選挙の情勢調査結果だ。7日の告示前には自民党候補が野党系候補にダブルスコアで勝っていたのに、1週間で42対39まで迫られた。『これは政局になる』と色めき立ったんだよ」


自民党は参院静岡、山口2補選のうち、山口は盤石だとして静岡に全力投球し、岸田文雄首相も告示日に現地でわざわざマイクを握った。先の総裁選で「選挙の顔」を替えたのに、あっという間に追い上げられたのは、衆院選の投開票を10月31日に控える首相にとって痛手だ。


8月22日の横浜市長選敗北は「横浜ショック」となって、菅義偉前首相の退陣につながった。最悪なのは「静岡ショック」が衆院選に連動して議席を大幅に減らし、政権が不安定化する展開だ。首相はいきなり試練を迎え、来夏の参院選に向けて「岸田降ろし」が起きないとも限らない。


事実、静岡補選は自民党候補が負けた。4人の長老が、総裁選で敗れた河野太郎広報本部長と、石破茂元幹事長、小泉進次郎前環境相の「小石河連合」に「将来に備えよ」と発信したのはこのためだった。


それを裏付けるかのように、報道各社が21日、衆院選序盤の全国情勢調査の結果を一斉に報じたが、立憲民主党と共産党を中心とする野党共闘を前に、自民党は明らかに苦戦していた。


公示前勢力276議席(定数465)に対して、読売新聞は「自民減で単独過半数の攻防」と、自民党が40議席以上も減らして、過半数の233議席を割り込むこともあり得ると報道。毎日新聞も「自民、議席減の公算大」「63選挙区で接戦」と報じた。結果を聞いた首相官邸の関係者は「まずいじゃないか」と焦りの表情を浮かべた。


ただ岸田首相は思ったよりも冷静だった。自民党が岸田内閣発足直後に行った情勢調査で「260議席」は確保できるとの結果が出ていたからだ。


全国紙やNHKは全国で10万人規模のサンプルを取るが、序盤戦ならあくまでもその時点での調査であり、上下にぶれる場合が多い。これに対して自民党の調査は、サンプル数が多い上に、独自の計算式で最終的な数字を的確にはじくとして定評がある。

岸田首相は“絶対安定多数”に自信!?

実は影響を与えるため報じられてはいないが、毎日新聞の調査も自民党の中心値は「263議席」で、公明党も公示前勢力の29議席と並ぶ「30議席」となっていた。逆に立憲民主党は「100議席」と、公示前の110議席から減らすとの結果だった。

岸田派幹部によると首相は、こうした数字も踏まえ「大丈夫だ。接戦となっている重点区をしっかりやってくれ」と選対に指示したという。


首相は今回の選挙で勝敗ラインを「与党で過半数」の233議席と設定しているが、実際は情勢調査を踏まえて「261議席」(党選対関係者)に置く。261は、衆議院の全常任委員長と全委員会での過半数を確保できる絶対安定多数の議席数だ。


菅前首相のままなら「自民党は最大で70減らす」と言われた中で、261議席を確保すれば、岸田政権として勝利を喧伝し、政策実行に向けて本格始動できる。


自民党内の「保守本流」で、リベラル派とされた宏池会を引き継ぐ岸田首相は、公約として「成長と分配による好循環」と「新しい資本主義」を掲げ、成長に軸足を置いた小泉政権以来の新自由主義的な経済政策の見直しを図ろうとしている。


「令和版所得倍増計画」「デジタル田園都市構想」の推進がそれだ。先の宏池会幹部によると、こうした政策の根幹は、富裕層や巨大企業からの「富の移転」にあり、具体的な手段が、首相が総裁選で掲げた「金融所得課税の強化」だという。


首相はマーケットの大幅下落を受けて「当面触らない」と軌道修正を図ったが、周囲には「やらないとは言っていない」と話し、実現への意欲を隠さない。首相周辺では、税率を現在の20%から段階的に30%にする案が浮上。内々の試算では30%への引き上げで約1兆円の税収増になる。


宏池会幹部が続ける。


「金融所得課税の強化はこの10年間検討されてきたが、安倍・菅政権では市場の反発を恐れて見送ってきた。これをやるのが岸田政権の使命だ。長期政権を重ねて、宏池会で10年は政権を維持し、使命を果たさなければならない」


そのためには、何が何でも衆院選で勝利を収め、政権基盤を固める必要があるのだ。

衆院選後に「大宏池会」構想

衆院選の序盤において、参院静岡補選で自民党に赤信号が点滅したのは「誤算」(官邸幹部)だったとはいえ、岸田首相はこの間、党内で政権基盤を固めるべく、選挙で岸田派を含めた主流派が勢力を拡大できるよう知略を重ねてきた。

選挙戦の陣頭指揮を執る甘利明幹事長は、同じ宏池会の流れを汲む麻生派の番頭格であり、遠藤利明選対委員長も同流の谷垣グループ幹部だ。


残っていた選挙区調整で、静岡5区と長崎4区では、岸田派の吉川赳氏と北村誠吾氏を公認。岸田派幹部の林芳正元文部科学相が参院からのくら替え出馬を決めた山口3区では、二階派の河村建夫元官房長官を引退に追い込んだ。甘利、遠藤コンビの力業だ。


同じ山口が選挙区の安倍晋三元首相は、この決定に不満を抱いたという。しかし、首相は「総裁選で俺は山口で、安倍さんが推した高市早苗を抑えてトップだった。林さんのおかげだ」と語り、意に介するそぶりも見せなかったという。


勢力拡大には首相なりの思惑もある。衆院選後に岸田派と谷垣グループを結集させて「中宏池会」を結成。麻生派との連携も深めて、事実上の「大宏池会」として活動する構想を描いているのだ。安倍氏の出身派閥で、党内最大派閥の細田派に対抗するためだ。


小石河連合や無派閥グループに影響力を持つ菅氏への備えも進めてきた。総裁選後の組閣人事で首相は、菅氏と河野、小泉両氏の3人が神奈川県選出であることから、同じ神奈川組の甘利氏の希望通りに、同県内で甘利氏に近い山際大志郎、牧島かれん両氏を経済再生担当相とデジタル担当相に起用。甘利氏に対抗する力を持たせた。


派閥に属していない若手や新人候補への働き掛けも強化。既に「5人程度」(岸田派幹部)から入会の段取りを付けたという。


岸田首相の攻勢を前に、安倍氏は劣勢を隠せない。党選対関係者は「カネを握られたのが大きい」と話す。カネとは、総裁や幹事長が差配する政策活動費と官邸の官房機密費だ。


政治資金収支報告書のページをめくると、年によっては幹事長に対して、年に計「何億円」もの政策活動費が支出されているが、使途は不明だ。関係者によると「多くは選挙での陣中見舞いや軍資金になっている」という。官房機密費に対しても同様の指摘がある。

静岡ショックで野党に勢い

党の情勢調査によると、細田派や無派閥の若手を中心とした安倍チルドレンのうち、当落線上にいるのは30人前後。彼らが軒並み落ちれば、岸田首相にとっても痛手になるが、安倍氏も自身の影響力がそがれることになるのは明らかだ。

日本会議や神道政治連盟といった保守系団体の動員力や影響力に期待するが、出せる票は1選挙区当たりで「3000票から5000票」程度とされる。安倍氏は、高市政調会長と手分けしてテコ入れに回るが、反応は「芳しくない」(関係者)という。


「総裁選の時は、高市氏陣営が考案した『サナエ・タオル』が方々で振られていたのに、今回はほとんど見られない。発言がブレる岸田首相への批判もあるが、保守系の選挙疲れと失速を感じる」(同)


安倍氏が焦りを感じているのは間違いない。


衆院選の投開票まで残り2日。この間、自民党内の主導権争いにおいては、岸田首相は優位に戦いを進めているとはいえ、参院静岡補選で大きなリードを得ていたのに敗れた「静岡ショック」の影響が、衆院選の最終盤でどう出るか予断を許さない。


岸田派幹部は「自民党の候補はもともとタマが悪かった」と話す。


「野党系候補は政令指定都市である浜松市出身なのだから、自民党も静岡市から候補を出すべきだった。それがなんで駿河の端っこの御殿場市長を立てたのか。当初から選挙は厳しいと言われていた」(同)として、苦戦は岸田政権のせいではないと強弁する。


だが、岸田内閣が発足してから猛烈に追い上げられ、そのまま衆院選で野党が勢いづいたのは事実だ。立憲民主党幹部は「菅前首相での選挙であれば180議席はいけた。今はそこまではいかないまでも、150議席は射程圏内に入っている」と意気込む。


この感触通りなら、共産党や日本維新の会も伸ばすことを加味すると、自民党は本当に単独過半数割れの危機にあることになる。維新を含めた野党全体で200議席を超える可能性もある。そうなれば岸田首相の責任論に発展するのは必至だ。いきなり退陣とはいかないまでも、参院選に向けて政局は流動化しかねない。


そのときに脚光を浴びるのは小石河連合ということになる。河野氏は衆院解散後、応援要請が殺到し、連日全国を飛び回って街頭演説に立つが、数百人から多い場所では1000人もの聴衆を集める。小泉氏や石破氏も人気は健在で、時には菅前首相も一緒に立つ。


しかも3人が応援に入るのは、多くが総裁選で河野氏を支持した候補の選挙区だ。小石河連合と菅氏は着々と反転攻勢を進めているのだ。一敗地にまみれた二階前幹事長も虎視たんたんと先を見据えているのは間違いない。


その二階氏を囲んだ東京・赤坂での会合で、4人の長老の意見が一致したことが、もう1つあった。それは「宏池会出身の首相はみな短命だ」ということだった。宏池会が輩出した大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一の各首相は、だれも長期政権を担うことができなかった。岸田首相もそうなるのか。それとも議席の減少を最小限に食い止め、長期政権に向けて歩み出すのか。


国民の審判は31日に下される。