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北朝鮮に国連が「飢餓の恐れ」警告! 軍備増強で庶民は野垂れ死に…

(画像) Quality Stock Arts / shutterstock

10月11日、北朝鮮の国営メディアは、金正恩総書記が平壌で開かれた国防発展展示会『自衛2021』を視察し、その際に「米国が敵対政策を続けるなら、われわれは無敵の軍隊をつくる」と宣言したと報じた。

会場となった三大革命展示館には、実戦配備されたとみられる中距離弾道ミサイル(IRBM)『火星12』や大陸間弾道ミサイル(ICBM)『火星15』など、同国が過去5年間に開発した25種類もの大型兵器が集められたという。

「中でも目を引いたのが、9月28日に試験発射した極超音速滑空ミサイル(HGV)『火星8』です。今年1月の第8回党大会で提示された国防5カ年計画において、HGV開発は『最優先5大課題』の1つという位置づけでしたから、今後も核弾頭搭載を目指して開発を続けるでしょう」(軍事ライター)

北朝鮮は、核実験や弾道ミサイルの試験発射を国連に禁じられているが、たびたびこれに違反し、重い経済制裁を受けている。その結果、すでに経済は瀕死の状態だが、北朝鮮は一貫して、自衛のために核兵器開発の継続が必要だと、屁理屈をこねている。

「北朝鮮の国民は、ミサイル発射実験に莫大な予算がかかっていることを知っており、不満は爆発寸前ですが、当局の監視が厳しく何もできない。そんな空腹の国民に、自衛意識などあるはずがありません」(北朝鮮ウオッチャー)

現在のアジア諸国は、HGV開発競争の渦中にある。HGVは弾道ミサイルなどで打ち上げられ、マッハ5以上の速度で滑空飛行するミサイル兵器で、低い軌道を飛ぶ上に機動性が高い。

もしHGVに核弾頭が搭載された場合、高度なミサイル防衛システムをかいくぐれるので、「ゲームチェンジャー(情勢を一変させる兵器)」になり得る。HGVによって、日韓のミサイル防衛システムは無力化されるのだ。

中国から北朝鮮への技術流出!?

しかし、来たる衆議院選挙で、HGVの脅威は争点になっていない。日本の政治家のノー天気ぶりには、あきれるばかりである。

「ロシアは10月上旬、原子力潜水艦『セベロドビンスク』から新型HGV『ツィルコン』2発を発射し、このうち1発を北極圏のロシア海域に設置した標的に命中させました。もう1発は水深40メートルからの発射に成功しています」(前出・軍事ライター)

中国も米国攻撃を想定し、新型HGVの試験発射を数十回実施している。台湾に近い中国南東部の沿岸には、すでにHGV『DF(東風)17』を配備済みとみられ、この『DF17』と『火星8』が酷似しているため、中国から北朝鮮へ技術が流出した可能性が大きいという。

「一方、米国は今年の9月下旬、外気吸入型極超音速巡航ミサイル(HAWC)の飛行実験に成功している。しかしながら、憲法に縛られている日本が導入できるはずもなく、早々に北朝鮮の暴走を阻止しなければ大変なことになります」(同)

正恩氏は先の展示会で、韓国の軍備増強に言及した折に、「北朝鮮は隣国との戦争は望んでいない。むしろ戦争を防ぎ、国家主権を守るため、文字どおり戦争抑止力を高めたい」と、まるで韓国に秋波を送るようなコメントを発している。

また、北朝鮮と韓国の緊張関係については、「米国が悪化させている」と非難し、韓国が主張する「北朝鮮のミサイルは挑発で、韓国のミサイルは抑止力」という二重基準を撤回するよう求めている。

正恩氏の妹、金与正氏も韓国・文在寅大統領の「終戦宣言」を肯定的に評価し、南北首脳会談の開催に言及しながら、そのためには韓国の「正しい選択」が必要になると強調。韓国への揺さぶりが目立っている。

北朝鮮にミサイルはあるが食べ物はない

「新型ミサイル開発に再び拍車をかけている北朝鮮が、韓国に対してやけに柔軟な姿勢をアピールしているのは、残り任期が7カ月しかない文氏の足元を見て、取り込みを図ろうとしているからです」(前出・北朝鮮ウオッチャー)

本来、北朝鮮は深刻な食糧危機に瀕しており、核・ミサイル開発に資金を注いでいる場合ではない。国連の北朝鮮人権状況特別部門は10月13日、コロナ対策の国境封鎖によって同国経済が逼迫し、社会的弱者層が「飢餓の恐れ」に直面していると報告した上で、国連の制裁を緩和すべきだと訴えた。

「正恩氏も6月15日の朝鮮労働党総会で、『国内の食糧事情が切迫している』と述べていますが、それなら核・ミサイル開発を即刻やめるべきでした。そうすれば国際的な支援や投資により、経済が上向く可能性もあった。国民が野垂れ死にしているのに、正恩氏は現実が見えていません」(国際ジャーナリスト)

今回の展示会で、北朝鮮は国防力強化をアピールするだけでなく、同時に経済発展効果も狙っていた。米国や欧州諸国などが、各種の兵器展示会を開催すると同時に、兵器取引につなげているケースを真似ようとしたのだ。

しかし、国際社会から孤立した北朝鮮が厳しい監視の中で、政情不安定なアフガニスタンやミャンマーに武器を売れるはずがない。武器取引で経済効果を狙うこと自体に、かなり無理があるだろう。

北朝鮮にミサイルはあるが食べ物はない。そんな状況がいつまで続くのか。

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