「宇宙ビジネス」が世界で急激に伸びている。米国の金融グループ『モルガン・スタンレー』の予測によると、2019年に約40兆円規模だった宇宙ビジネス市場は、40年には100兆円まで膨らむという。
海外に比べると日本市場はまだ1.2兆円(内閣府などの統計)だが、こちらも早期に倍の2.4兆円を目指す。活気づく宇宙ビジネスの最新動向を追った。
金融系シンクタンク研究員が明かす。
「これまで大手企業や大手金融機関などは、国内ベンチャーなどへの融資に慎重でした。しかし、昨年あたりから積極的な動きを見せ始めています」
確かに宇宙ビジネスというと、ロケットの打ち上げや宇宙旅行などを真っ先に思い出す。しかし、そこまではまだ未知の領域だ。
「現在、この分野に新規参入する最大の理由は、衛星データの活用によるビジネス展開です。例えば米国の宇宙ベンチャー企業は、衛星画像と気象情報を分析し、その年の農業生産量などを高い精度で予測している。これらは農業従事者だけでなく、金融業界の商品先物取引などに大きな影響を与えています」(同)
では、具体的にどんな例があるのか。宇宙ベンチャー関係者が言う。
「昨年、トヨタ自動車、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行が出資した『スパークス・グループ』(東京都港区)の子会社が、ベンチャー企業への投資を想定した『宇宙フロンティアファンド』を設立しました。その目的は宇宙開発に関わる人材や技術を育成することで、最終的には150億円規模の事業になります」
衛星画像やAIを使った地理空間分析
宇宙フロンティアファンドの融資先の一つに、次世代地球観測プラットフォームを構築する『アクセルスペース』(東京都中央区)がある。同社は重さ100キロ前後の超小型光学観測衛星を打ち上げ、衛星から得られるデータの解析や情報提供を行うという。
また、東京海上日動火災保険は、18年から「水災検知ソリューション」を運用している。大規模な水害が発生した際、保険会社は被害実態を調べ、状況に応じて保険金を支払うことになるが、この作業に従来は大変な時間がかかっていた。保険業界の関係者が言う。
「現地に人が入って隈なく被害額を算定するため、以前は結果が出るまでに、早くても1カ月かかっていました。水災検知ソリューションは、それを衛星画像やAI(人工知能)を使った地理空間分析で瞬時に解決し、人件費節約と大幅な時間短縮に成功したのです」
ところで、現在の宇宙ビジネスといえば、これまで解説した衛星のデータ利用が中心だが、その先にはロケット開発や惑星探査、資源開発、さらには宇宙旅行などが見えてくる。
そこで、我々にもなじみのあるロケット開発と宇宙旅行について、最新のビジネス動向に触れておきたい。
日本のロケットといえば、長らく『宇宙航空研究開発機構(JAXA)』が主導してきた『H-ⅡAロケット』で、20年まで41回もの打ち上げに成功している。しかし、1回100億円前後の費用がかかるため、宇宙ビジネス全般のハードルを高めているとの批判もあった。
これに対して、安価な小型ロケットの打ち上げに挑戦しているのが、〝ホリエモン〟こと堀江貴文氏が出資し、13年に設立されたロケット開発企業『インターステラテクノロジズ(IST)』(北海道広尾郡)だ。
どんどん“値下がり”しそうな宇宙旅行
昨年、民間で日本初の打ち上げに成功した同社の観測ロケットが、10月3日、二度目の打ち上げに成功した。これまで米中の2社しか成功していない快挙だ。前出の宇宙ベンチャー関係者が言う。
「ISTはいよいよ本格的に、新型ロケット『ZERO』の開発に乗り出す。これまでの費用は主にクラウドファンディングや、堀江氏の個人資金の持ち出し。しかし、二度の打ち上げ成功で、企業や金融機関の動きが活発化するはずです」
さて、もう一つが宇宙旅行だ。金融コンサルタントが解説する。
「宇宙旅行といえば、真っ先にZOZO創業者の前澤友作氏を思い浮かべるが、今年12月にロシアの宇宙船『ソユーズ』に搭乗し、国際宇宙ステーションを訪問することが決まった。また、23年には米国の航空宇宙メーカー『スペースX』の民間宇宙旅行で、月に行く予定もあるという」
今年7月、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が、自ら設立した宇宙開発企業の宇宙船に搭乗し、宇宙への飛行に成功している。
「富裕層には宇宙旅行に興味を持つ人が多い。今は1回の飛行で約20億円と天文学的な金額だが、あと数年すれば5000万円前後に値下がりすると言われる。富裕層を100人集めて50億円なら、ここに投資する人も続出するだろう」(同)
日本の基幹産業である自動車産業の世界市場は、約400兆円と言われるが、これが永遠に続く保証はない。そんな中、近い将来に100兆円超えの様相を呈する宇宙ビジネスへの視線は、日々、熱くなるばかりだ。
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