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蝶野正洋『黒の履歴書』~大横綱「白鵬」引退に思うこと

蝶野正洋
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

横綱の白鵬が引退した。史上最多45回の優勝、横綱在位85場所という成績は、今後も抜かれることはない大記録。

一人横綱の期間が長くて、⻆界を背負う重責も大きかったと思うから、今はお疲れさまでしたと声をかけてあげたいね。

ただ、俺としては、引退はまだ早いというか、もうちょっと頑張ってもらいたかったという思いもある。

やっぱり照ノ富士との横綱対決はもっと見たかったし、もう1人くらいイキのいい横綱候補の力士が出てきた時に、白鵬が厚い壁となって立ちふさがるような展開も期待していたからね。

引退後は年寄を襲名して、当面は部屋付き親方になるんだけど、相撲協会は白鵬に対して「相撲界のしきたりを逸脱しないこと」「先輩年寄の指導をよく聞くこと」などの条項が書かれた行動誓約書を提出させるという異例の措置を取った。

相撲協会は、これまでもずっと白鵬に〝横綱の品格〟を求めて来たという経緯がある。でも、俺は白鵬がそこまでダーティーだったとは思わない。

取り口が荒いとか、かち上げがエルボーになってるという指摘もあったけど、それも横綱ならではのテクニック。輪島さんだってここ一番ではマワシがユルかったりしたけど、それを卑怯だと責めるのではなく、そういう引き出しも持っているのが横綱なんだよ。

逆にいえば、いま相撲協会には横綱まで昇り詰めた人はほとんど残っていない。若・貴も朝青龍も日馬富士も相撲界から離れてしまった。やっぱり、相撲の世界で横綱は別格の存在。三役くらいまでしか務めてない人に、白鵬の心境なんて分からないんじゃないかな。だから、横綱経験者がこれから後進の指導に当たるというのは貴重なことだし、相撲協会にとってもありがたい話だと思う。

チャンピオンがチャンピオンを育てる

プロレスでいえば「チャンピオンがチャンピオンを育てる」という格言がある。俺も世話になった〝鉄人〟ルー・テーズの師匠はエド・ストラングラー・ルイスという伝説的なチャンピオンで、テーズさんに技術的なことだけでなく、トップに立つための帝王学も伝授したと言われている。

どの世界でもトップにしか分からないことがあるし、それを教えられるのもトップに立ったものだけ。それが最近の相撲協会では出来ていなかったんだよ。

白鵬は、朝青龍という根っからのヒールと違って、根は真面目だと思うし、ちゃんと相撲界のことを考えていると思う。10年前から『白鵬杯世界少年相撲大会』の世話人を務めていて、子どもたちに相撲の面白さを広めていたりね。

日本国籍も取得したし、相撲に対する気持ちも、覚悟もある。だからこそ、これからの指導者としての白鵬にも期待できるよね。

とはいえ、いくら大横綱といえども、親方衆に入ったら一番下っ端から始めないといけないけど、結局はここも実力でノシ上がっていくしかないんだよ。

では、親方としての実力とは何かというと、これはいい相撲取りを育てることしかない。今は品格だなんだって言われているけど、これで白鵬が強い日本人横綱を育て上げたら、もう全部がひっくり返るよ。相撲協会だけでなく、国民全員が文句言えないどころか「白鵬ありがとう!」と感謝するようになるだろうね。

蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。

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