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天龍源一郎「今日のこの勝ちは東京ドームより重い」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”
さまざまな団体のリングに立ち、数多くの名勝負を生み出してきた〝生ける伝説〟天龍源一郎。
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今もなお「ジャイアント馬場とアントニオ猪木からフォールを奪った唯一の日本人プロレスラー」の勲章は、色あせることがない。
かつて全盛時代の長州力が「マスコミは東スポ(東京スポーツ)だけあればいい」と言ったことがあった。いろいろとマスコミに含むところがあっての言葉には違いないが、当時のプロレスラー側からすると、特にプロレス専門誌などは諸刃の剣のような存在にみられていたのだろう。
某団体のフロントが私に話したことがある。
「プロレス専門誌の記者さんって、もともとがファンだからさぁ。応援してくれる分にはいいんだけど、あんまり思い入れが強いと、コッチが困っちゃうこともあるんですよね」
例えば、団体内で微妙な立場にいる選手が、専門誌の表紙や巻頭記事で推されたりすると、当該選手の人気が出るのは団体としてはありがたい。しかし、そのせいで他選手との関係がギクシャクしてしまい、間を取り持つ事務方の苦労が増えるというのだ。
もっとストレートに「あいつら、本当のことなんて何も分かっていないくせに、好き勝手書きやがって」と、専門誌記者を悪しざまに言う団体関係者もいた。
そんなプロレス専門誌と記者の妄想がつくり上げたものに、UWFがあった。
今でこそ「UWFはプロレスの1つの流派だった」との考え方が浸透しているが、第2次UWFの旗揚げの頃には、これを格闘技的な意味での「真剣勝負」とする論調が少なくなかった。
いくら馬場が全盛期をすぎていたとはいえ…
プロレス専門誌の記者たちが本気で真剣勝負だと思っていたのか、真剣勝負と喧伝することでUWF人気が高まれば、雑誌も売れると計算してのことだったのか。いずれにしてもUWF人気の多くの部分を、プロレス専門誌が担っていたことに違いはあるまい。しかし、そうなると他のプロレスラーたちは面白くない。「あれぐらいのことは俺だってできるのに、なんでUWFばかり人気なんだ」と思っていたレスラーは、結構いたはずだ。
1989年11月29日、飛ぶ鳥を落とす勢いだったUWFが、初の東京ドームに進出したその同じ日、全日本プロレスは『世界最強タッグ決定リーグ戦』の札幌大会を開催していた。
メインイベントは天龍源一郎&スタン・ハンセンVSジャイアント馬場&ラッシャー木村の公式リーグ戦。
すれっからしのプロレスファンなら、このカードを見ただけで「最後はハンセンが木村にラリアットを決めて勝つ」と、思ったかもしれない。
しかし、結果はさにあらず。天龍は馬場からピンフォールを奪ってみせたのだ。
パワーボムの体勢に入った天龍は、いったんリバース・スープレックスで返されるも、馬場の胴に回したクラッチを外すことなく、再度の挑戦で見事にパワーボムを決めて、3カウントが数えられた。
いくら馬場が全盛期をすぎていたとはいえ、全日旗揚げ後、日本でデビューした選手に3カウントを許したのは、1978年の『チャンピオン・カーニバル』における大木金太郎だけであった(天龍以後も三沢光晴だけ)。
歴史的偉業に戸惑ったようなどよめきが…
マスコミやファンの注目がUWFのドーム大会に集まる中、天龍は歴史的偉業を成し遂げた。会場のファンも信じられなかったのだろう。天龍の勝利後には歓声ではなく、何かファンも戸惑ったようなどよめきが起こっていた。試合後、天龍は控室で「今日のこの勝ちは東京ドームより重い」と語っている。もちろんUWFのドーム大会を意識したものに違いないが、実は同年6月5日、ジャンボ鶴田から三冠ヘビー級王座を奪ったときにも、天龍は「この3本のベルトは東京ドームよりも重い」との言葉を残している。
この時の「ドーム」とは、同年4月にプロレス界初の東京ドーム大会を開催した新日本プロレスを意識したものだった。そうしてみると天龍は、UWFだけを特別に意識していたわけではなさそうだ。
「新日やUWFはドームで試合をやっているが、試合自体は俺のほうが面白い」という自負が、「ドームより重い」との言葉につながったのだろう。
確かに天龍が馬場に勝ったことは覚えていても、UWFのドーム大会で前田日明が誰と闘ったのか、覚えているファンは少ないのではないか(正解はオランダの柔道家ウィリー・ウィルヘルム)。
「新日やUWFがすごいというのなら、俺はもっとすごいことをやってやる」
そんな天龍の真っすぐな革命魂が、後世まで残る昭和プロレスの名場面を生み出したのである。
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