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新型コロナのデルタ株はなぜ収束したのか~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

デルタ株による新型コロナの感染「第5波」が急速に収束しつつある。

全国の新規陽性者数は、ピークだった8月21日の2万5851人から10月10日は546人と47分の1に減少した。また、『東洋経済オンライン』が推計している実効再生産数(1人の患者が何人に感染させるかという数字)も、ピークだった8月1日の1.79から10月10日には0.67と、およそ3分の1に下がっている。

10月6日に厚生労働省のアドバイザリーボードも、第5波について「感染拡大前の水準まで減少している」との見解をまとめている。事実上の収束宣言だ。

第5波収束の最大の原因は、もちろんワクチン接種だ。ただし、10月20日現在で、ワクチン接種者数は、1回目が9599万人(接種率75.8%)、2回目が8608万人(接種率68.0%)と、集団免疫が成立するとされている8~9割の水準には達していない。それでは収束の原因は何なのか。

日本の場合、12歳未満はワクチン接種の対象外となっている。しかし、現在のワクチン接種率は分母に総人口を取っている。そこで、実際にワクチン接種が可能な12歳以上のワクチン接種率を計算すると、集団免疫の水準に近づくのだ。

さらに、免疫を持っているのはワクチン接種済みの人たちだけではない。コロナ感染者も抗体を持っている。日本では、すでに172万人が新型コロナに感染している。この人たちを加えると、免疫を持つ人の割合は1.5%上昇する。

医療崩壊への恐怖が行動自粛をもたらした

もちろん、日本では既感染者もワクチンを接種するので、ダブルカウントになっていることは事実だ。しかし、一方で感染しても無症状のまま治癒して、抗体を持っている人もいる。私は、その人数も相当多いのではないかと思うのだ。

また、人々の行動変容も収束に貢献したことは事実だろう。しかし、それは緊急事態宣言の効果ではなく、人々の感染への恐怖がもたらしたものだ。8月のピーク時には、コロナの陽性が明らかになっても、入院できる比率は1割を切っていた。そんな医療崩壊への恐怖が、行動自粛をもたらしたのだ。

同時にこの恐怖は、それまでワクチンに否定的だった若者をワクチン接種に駆り立てた。

結局、今回の感染5波の収束は、日本のコロナ対策が成功したのではなく、失敗したからこそ実現したものではないだろうか。

私は、冬に向けてデルタ株による第6波がやってくる可能性は小さいと考えている。むしろ可能性が高いのは、ワクチンの効果が小さいと言われるミュー株のような新たな変異株だ。だから、いま最優先しなければならないのは、流行拡大に先んじて、初期段階での感染抑制と国産のワクチンや治療薬を開発しておくことだろう。

岸田文雄総理は10月8日の所信表明演説で、国産ワクチンや治療薬の開発支援を打ち出し、厚生労働省もワクチン承認の迅速化の方針を打ち出した。ただ、それは将来の話ではなく、いますぐ取り組むべき課題で、遅きに失した政策なのだ。

青息吐息の観光業や運輸業、エンターテインメント産業を救うためには、書き入れ時の年末年始に感染拡大を招いてはならない。コロナ対策の転換は、GoTo再開よりも優先順位が高いのだ。

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