小橋建太「今、幕を閉じようとしているプロレス人生。自分の青春でした」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”
「絶対王者」「鉄人」などの異名もあるが、最も小橋建太にふさわしいのは「青春」の2文字ではないだろうか。
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ムーンサルト・プレスを放つ直前の定番ムーブ「青春の握り拳」は、見る者の心もまた熱く燃え上がらせた。
ジャイアント馬場から継承した「プロレスの王道」はもちろんのこと、「努力を重ねて強くなり、強敵を倒し、栄光をつかむ」という少年漫画の主人公のような「人生の王道」を体現してきた小橋建太。
プロレスにハプニング性や格闘技としての強さを求めるファンからすると、あまりにも純粋な小橋のことを物足りなく感じるかもしれない。
しかし、現実に小橋は多くの「信者」を生み出し、2004年7月10日に開催されたプロレスリング・ノア初の東京ドーム大会では、時のGHC王者としてメインイベントを務めている。
ドーム大会の大一番となれば、因縁マッチや他団体との対抗戦など何かしらのサイドストーリーが付き物だが、小橋の場合は同じ団体の秋山準とのタイトル戦という「小橋のプロレス」そのもので、超満員(団体発表5万8000人)の観客を集めてみせた。
そもそもノアの旗揚げからの成功は、三沢光晴社長の奮闘もさることながら、やはり小橋の存在によるところが大きかった。
全日本プロレスの入団テストを書類審査で落とされ、通っていたジムの紹介によってなんとかプロレスラーになった。いわば当時の小橋は、一山いくらのどこにでもいる新人にすぎず、SWS騒動などドタバタのせいで海外修行に行くこともできなかった。
あまりに早かった引退の決断
それでも自分なりにひたすら練習を重ねることで、全日では四天王の一角に数えられるまでに成長し、ノアでは「絶対王者」と呼ばれる存在になった。天性の才能や恵まれた体格、あるいは格闘技経験などのキャリアがなくても、己の努力によってドーム大会の主役になれることを小橋は証明してみせた。
「努力を重ねて強くなる」という至極まっとうなアプローチは、一見すると誰でも真似できそうだが、本当にそれをやり遂げるのは困難であり、しかも、過剰な努力は大きなリスクを伴うことにもなる。
ノアの旗揚げと前後して、小橋はヒザやヒジの故障に苦しめられるようになり、手術のための長期欠場もたびたび経験した。さらに06年6月には、まさかの腎臓がんも患った。
しかし、そのたびに復活を果たした小橋は「鉄人」とも呼ばれたが、12年12月、ついに引退を決断した。
この時、小橋は45歳。師匠の馬場が亡くなったのは61歳、アントニオ猪木の引退が55歳だったことを思えば、あまりにも早い。これは「全力ファイトができないならば、プロレスラーの資格はない」という小橋なりの矜持を示したものだろう。
13年5月11日、日本武道館で開催された『小橋建太引退記念試合』のラストマッチは、秋山準、武藤敬司、佐々木健介と組んだ8人タッグで、相手のKENTA、潮崎豪、金丸義信、マイバッハ谷口は、歴代の小橋の付き人たちであった。
長女に伝承した「青春の握り拳」
この試合に向けてしっかり体を作り上げてきた小橋は、場内の割れんばかりの「小橋コール」を受けて先発すると、逆水平チョップを連打。往年と変わらぬ得意技を次々に披露し、最後は代名詞である「青春の握り拳」からムーンサルト・プレスを金丸に決めて、有終の美を飾った。試合後のリング上、ノアのテレビ中継を担当してきた日本テレビの矢島学アナから、今日の気分を聞かれると「いつもと変わらなかったです。いつもと変わらずに朝早く起きて、道場に行って、武道館に来ることができました。いつもと変わらないです」と話した。
そして「プロレスとは何だったのか?」との問いに対し、小橋は「今、幕を閉じようとしているプロレス人生。自分の青春でした」と答えた。
45歳にして、なんのためらいもなく「青春」という言葉を口に出し、そこに一切の違和感がない。そのことが改めて、小橋というプロレスラーの偉大さと特殊さを感じさせた。
現役を引退してからも自身のプロデュース興行を開催するなど、プロレス界で青春を謳歌し続ける小橋。演歌歌手のみずき舞さんとの結婚から5年目にして、15年には待望の長女も誕生した。
生まれた直後の子供が両手を握り締めているのを見て、夫婦そろって「青春の握り拳だ」と笑い合ったという。新生児が握り拳をするのはごく自然なことだが、それでも小橋の子供となると、何か特別な意味がありそうな気もしてくる。
《文・脇本深八》
小橋建太 PROFILE●1967年3月27日生まれ。京都府福知山市出身。身長186センチ、体重115キロ。 得意技/剛腕ラリアット、バーニング・ハンマー、ムーンサルト・プレス、逆水平チョップ。
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