北朝鮮“新型ミサイル発射”連発の意味…窮地に追い込まれた金王朝
去る9月29日、北朝鮮の金正恩総書記が最高人民会議(日本の国会に相当)の第14期第5回会議の2日目に演説し、政治、経済、文化、国防、対外関係など幅広い分野での施政方針を示した。
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また、南北関係改善に意欲を見せつつも、韓国側に米国寄りの姿勢を正すように要求し、対米関係では「敵意丸出し」と米国への失望感をあらわにしている。
なお、同会議では「国務委員会」の人事も発表され、正恩氏の実妹・金与正氏が朝鮮労働党の核心である「国務委員」に昇進したことも明らかになった。与正氏はすでに北朝鮮で最も重要な政治家の1人でもあるが、国務委員はこれまで就いたどの役職よりも高位にあたる。
「これで与正氏は、正恩氏、国家ナンバー2の崔竜海氏(最高人民会議常任委員長)、金徳訓首相(党政治局常務委員)、趙甬元書記(党政治局常務委員)、朴正天書記(党政治局常務委員)の北朝鮮トップ5に準じる地位に就きました」(北朝鮮ウオッチャー)
与正氏は今年1月の党大会で、政治局候補委員から外れ、第1副部長から副部長に降格されていた。それが今回、国家最高の政策決定機関である国務委員会のメンバーに昇格したことで、南北・対米関係を統括してきた立場にふさわしい指導部内での地位を与えられたことになる。
「新たに選ばれた国務委員は与正氏のほか7人いるが、女性は同氏のみ。入れ替わりで9人が、委員から引退もしくは降格した。この中には軍事部門を統括しながらも、今年6月に失脚した李炳哲元元帥や、対米交渉の実務を担当してきた崔善姫第一外務次官がいます。補選の内容を見ると、対米関係を強く意識した布陣という印象です」(同)
物価高騰で北朝鮮の「市場」は荒れ放題…
ところで、新型コロナによる世界的なパンデミック以降、軍事的に鳴りを潜めていた北朝鮮だったが、9月に入ってからは11日、12日に新型巡航ミサイル、15日に鉄道発射式の短距離弾道ミサイル、そして、28日には滑空弾頭を持つ極超音速ミサイル『火星8』と、新型ミサイルの試射を立て続けに実施。9月30日にも、新型の地対空ミサイルの発射試験を行っている。北朝鮮の朝鮮中央通信によれば、極超音速ミサイル『火星8』は通常のミサイルよりも格段に速く、臨機応変に飛行する。そのため日本のミサイル防衛システムによる迎撃は、ほぼ不可能だという。
北朝鮮の物価高騰は、もはやコントロール不能。これまで市民生活を支えてきた「市場」は荒れ放題で、底の抜けたバケツ状態だ。このままでは早晩、正恩体制を揺るがしかねない事態に直面することになる。
「こうした局面を打開するには、『米国との交渉しかない』というのが北朝鮮指導部の結論です。ですから正恩氏は、バイデン政権からの心証を良くするため、トランプ前大統領と約束した『核実験とICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射の凍結』をかたくなに守っているのです」(国際ジャーナリスト)
国内の混乱が収まらず、外交も行き詰まる中、正恩氏が自らの「威信」を示す手段は、ミサイル開発の「成果」を繰り返しアピールすること以外になくなっている。そのため、失敗しようが、開発の途中であろうが、ミサイルの試射を続けなければならないのだ。
ちなみに、正恩氏の父・金正日総書記の時代に実戦配備された中距離弾道ミサイル『ムスダン』は、のちに完全な失敗作であったことが明らかになっている。
韓国の左翼政権を下支えする意図がミエミエ
「正恩氏は自ら積極的に指導して、一応は米国に脅威と感じさせる水準まで核・ミサイル技術を引き上げました。しかし、手にした軍事的能力をテコに、米国の妥協を引き出すには至っておらず、国連安保理の経済制裁が緩和されない中、世界のどの国からも大規模な経済支援を得られずにいる。コロナ禍での国難も元をたどれば、正恩氏自身の失政にあるのです」(同)そんな混沌とした状況の中、与正氏が国務委員会のメンバーになったことは、今後の北朝鮮外交を占う上で大きな意味がある。
「与正氏は先般、『韓国側の言動が敵対的でなければ、関係回復と将来の展望に関する建設的な議論をする用意がある』と明言しました。また、韓国の文在寅大統領が、国連総会で『朝鮮戦争終戦宣言』の推進を提案したことについても、高い評価をしています」(前出・北朝鮮ウオッチャー)
政権末期の文氏に秋波を送っているのは、物資や外貨が不足した厳しい現状を打破するため、多少なりとも韓国からの協力を仰ぎたいからだ。それと同時に、米国とのトップ会談再開への橋渡しを期待しているのだろう。
「韓国が『親北』政権から『親米・保守』政権に代わることがないように、左翼政権を下支えする意図もミエミエです。最近の相次ぐミサイル発射は、こうした複数の懸案を打開するため、『現状を放置するなら核戦力を着実に向上させる』と、日米韓を恫喝しているというわけです」(同)
ギリシア神話に描かれたトロイ戦争には、『トロイの木馬』という有名なエピソードがある。トロイ戦争を朝鮮戦争に置き換えると、北朝鮮は「木馬」の中に潜み、文政権後の左翼政権が「木馬」を国内に引き入れることを虎視眈々と狙っているのだ。
もし、それが実現した場合には、言うまでもなく日本は大きな危機を迎えることになる。
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