『NHKスペシャル ルポ車上生活 駐車場の片隅で』宝島社/本体価格1450円
後田麟太郎(うしろだ・りんたろう)
NHKスペシャル『車中の人々 駐車場の片隅で』取材班 ディレクター。全国100以上の道の駅を訪問。およそ50人の車上生活者を取材した。
――本書はNHKスペシャル『車中の人々 駐車場の片隅で』をまとめたものです。取材しようとしたきっかけは何だったのですか?
後田 きっかけは小さなニュースでした。
「50代の女性が92歳の母親とみられる女性が死亡しているにもかかわらず、遺体を軽乗用車に放置。逮捕された女性は、母親と息子、家族3人で1年にわたり軽乗用車の中で生活していた」
家族で車上生活? いったいどんな事情があったのだろうか? 次々と疑問が湧く中で取材班が組まれ、この家族の足跡を追うことになりました。その過程で道の駅を訪れたところ、明らかに〝車で暮らしている〟人々の存在に気が付き、本格的に車上生活についての取材が始まりました。
――かなりの数の車上生活者がいるようですね。
後田 全国各地の道の駅を回りましたが、これだけ多くの人が車上生活を送っていることにとても驚きました。同時に車上生活者の多くが、道の駅など公の場所にいるにも関わらず、誰にも気付かれずに暮らしているということが、とても怖く感じました。
“車を持っている”ため生活保護を受けられず…
――特に強く印象に残っている方はいますか?
後田 群馬県で出会った元トラック運転手の60代の男性は、1年以上にわたって道の駅の建物から一番離れた、舗装もされていない駐車場で軽自動車の中に暮らしていました。車の中は〝寝室〟〝台所〟〝納戸〟のように整理整頓されていて、月10万円程度の年金をやりくりして生活していました。妻と死別し、目の病気で仕事も失って車上生活になり、生活保護の申請は車を持っていることを理由に断られたといいます。
体重は1年で20キロ近く減り、取材当時はガソリンや食料も底を尽き、年金支給日を指折り待つような状態でした。彼の話を聞き、誰もが自分を守ってくれる最後の場所として車に逃げ込まざるを得ない状況になる可能性があると強く感じました。
――ネットカフェ難民との類似性を指摘する声もあります。国のセーフティーネットが十分に機能していないように思うのですが…。
後田 地方においては、何かあった時に逃げ込む先が、ネットカフェではなく車になるのではないか、と感じました。ネットカフェは都心ほど数がなく、生活の足として1人1台、軽自動車を持っているという人も少なくないためです。車上生活の背景は千差万別で、単純に貧困や福祉問題として解決出来るわけではありません。〝生きづらさ〟を抱えている人たちの姿の一つが、車上生活なのではないかと思っています。
(聞き手/程原ケン)
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