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総スカンだった「河野年金改革」の実現性~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

自民党総裁選挙で河野太郎氏が提唱した年金制度改革案が、波紋を広げている。

河野改革案は、基礎年金を全額、消費税財源の最低保障年金に変えるとともに、積立方式の所得比例年金を導入することが柱で、年金制度改革としては理想的だ。

税財源の最低保障年金を導入すれば、年金の未納期間があったとしても、一律の年金が受け取れる。また、低所得者に大きな負担となっている月額1万6610円の国民年金保険料がなくなれば、低所得者の生活はすぐに改善する。

さらに、所得比例年金を積み立て方式に転換すれば、現状程度の年金が将来にわたって確保できる。現在の厚生年金月額は平均で14万6162円、国民年金は5万6049円だから、専業主婦世帯夫婦の年金月額は20万2211円となる。決して大きな金額ではないが、質素に暮らせばギリギリ暮らせる年金だ。

しかし、年金制度をまったく改革しないと、いまから30年先には高齢化の進展に伴って、夫婦の年金月額は13万円程度に減ってしまう。積立方式に転換すれば、そうした事態を防ぐことができるのだ。ただ、問題はコスト面である。

まず、最低保障年金の導入に関しては、基礎年金と国民年金の受給権者が3629万人なので、毎月5万6049円を一律支給するためには、年間24兆4000億円の財源が必要になる。これを消費税でまかなうと、消費税は1%で2兆7000億円の税収があるから、消費税率を9%引き上げる必要がある。

もう一つの問題は、積立方式への転換だ。もともと日本の公的年金制度は、積立方式を目指していたが、高齢者への年金給付を優先するため、積立金を使い込んでしまった。

消費税率を28%にしないと実現できないが…

現時点で積立不足は750兆円に及ぶとされており、これを例えば30年かけて解消しようとすると、年間の負担は25兆円だ。消費税増税で対処しようとすれば9%引き上げる必要がある。最低保障年金と合わせると、18%の引き上げ、つまり消費税率を28%にしないと、河野改革案は実現できないことになる。

消費税には逆進性があり、低所得者ほど負担が大きい。最低保障年金で低所得者を救おうとして、かえって低所得者の生活を追い詰めることになってしまうのだ。

それでは河野改革案は実現不可能なのか。私はそう思わない。年金改革に必要な毎年59兆円の資金を国債発行でまかなえばよいのだ。そして、国債はすべて日銀に買ってもらう。「財政ファイナンス」と呼ばれる手法で、そんな禁じ手を使ったらハイパーインフレになってしまうというのが、これまでの経済理論だった。

ところが、昨年度、日銀の国債保有は1年で46兆円も増えた。コロナ対策で大きな財政出動をしたからだが、それだけ日銀が国債保有を増やしても、ハイパーインフレにはならなかった。しかも、現時点で消費者物価は前年比で下がっている。だから毎年59兆円ずつ日銀が国債保有を増やしていけば、河野年金改革は実現できるのだ。

国債発行を何年も続けたら、確実にハイパーインフレが来て経済が破綻すると、批判的な経済学者もいるが、そうなるとは限らない。一方、消費税を28%にしたら、その瞬間に日本経済は終わってしまう。

だからハイパーインフレのリスクを覚悟してでも、年金改革の財源は国債発行のほうがよいだろう。

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