『逆転の大中国史 ユーラシアの視点から』(文春文庫:楊海英 本体価格830円)~本好きのリビドー/悦楽の1冊

今にして思えば往年の人気漫画『キン肉マン』で、名物キャラクターの「ラーメンマン」が、額に〝中〟の一字を刻んで中国代表というのは、おかしな設定だったと言わざるを得ない。なにしろ彼の頭は弁髪で、それは三百年に及ぶ清朝を築いた満州人、女真族の風俗なのだから。

同様に今日、チャイナドレスと呼ばれるスリットの入った艶めかしい衣装にせよ、元はといえば、女性が着たまま馬に乗りやすいよう考案された遊牧民族の文化。つまり現在、共産党独裁のもと、中国を支配する漢民族とは、文化的に全く出自を異にするものまで〝中国四千年(これも最近じゃ五千年だったか? 〝南京大虐殺〟の犠牲者と等しく、気が付けば数字を水増ししていくのはあちらのお家芸ゆえに)〟の文字面と重量感に幻惑されてしまい、つい十把ひとからげに〝中華文明〟の産物と無意識に刷り込まれる危険性を、今後は強く意識せねばなるまい。

チンギス・ハーンの記録すら抹殺を図る中国

著者の主張はダイナミックかつ明快だ。

世界史教育の現場で、もはや東洋史と西洋史の二分論に限界が指摘され始めたのは史上初のアジア全域からヨーロッパにまたがる世界帝国を興したモンゴルの重要性が再認識されて以降のこと。そのモンゴル帝国の一部だった元朝を含め、歴代中国王朝で軍事的強盛と文化的勢威を共に示せたのはほぼ常に漢民族以外の北方遊牧系民族である点。

そして、彼らいわゆる征服王朝は例外なく、言語・宗教・文化面で他民族に対し極めて寛容であったのも見逃せない。新疆ウイグル自治区で絶滅政策を強行し、内モンゴル自治区では母国語を禁じるばかりか、チンギス・ハーンの記録すら抹殺を図る中国。「歴史に復讐される」という言葉が、予言めいて響く。

(居島一平/芸人)