
長州力「俺が業界のど真ん中を突っ走ってやる」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”
体制に牙をむいた〝かませ犬〟発言以降、プロレス界の寵児となった長州力。新日本プロレスの現場監督となってからも数多くの名レスラーを育て、ヒット企画を連発した。しかし、そうした成功体験は往々にして人を狂わせるもので、長州もその例外ではなかった。
1987年に全日本プロレスから新日本プロレスへの本格復帰を果たした長州力は、アントニオ猪木の衰えや藤波辰爾の故障、前田日明らUWF勢の離脱などもあって、現場監督として権勢を振るうようになる。UWFインターナショナルとの全面対抗戦を主導するなど、ビッグイベント中心の興行スタイルを確立し、ビジネス的にも新日に大きな成功をもたらした。
プロレス界の寵児・長州力こそが日本式プロレス保守本流を継承
長州は98年1月に最初の引退をするが、これは自分の進退と引き換えにして、猪木に現役引退を迫ったもの。そうして猪木がリングを去ると、2000年7月には大仁田厚との抗争を利用して現役復帰を果たし、新日をリングの内外から完全掌握することとなる。だが、そんな長州体制にほころびを生じさせたのは、お引き取り願ったはずの猪木であった。K-1や総合格闘技の隆盛を見た猪木は、これを利用することが新日のレベルアップにつながると本気で信じており、そして、これらに自分自身が関わったり、子飼いのレスラーを派遣したりすることによって、経済的な利益を求めた部分もあった。
もとより格闘技志向の強かった藤田和之だけでなく、新日トップの証しであるIWGP王者の永田裕志や期待の新人・中邑真輔までも、格闘技路線へと強権的に駆り出されていった。しかし、そこでの敗戦は新日のイメージを下落させ、また新日の興行においても、「アルティメット・クラッシュ」と称する総合格闘技的な試合を行ったことで、従来のファンを当惑させることにもなった。
格闘技戦で結果を出した藤田や安田忠夫がIWGP王者となったのも、2人を預かっていた猪木事務所の強力な後押しがあってのことだった。猪木の思いつきによるビッグマッチでのカード変更は日常茶飯事となり、さらに長州ラインが進めた全日との対抗戦には、「放っておけば潰れるものを助けてどうする」と大っぴらに苦言を呈した。
そんな猪木の振る舞いに、長州や渉外・広報を担当していた永島勝司取締役(当時)は忸怩たる思いを抱いていたが、創業者である猪木に正面からたてつくことなどできない。そんなさなかに起きたのが、武藤敬司の新日離脱からの全日社長就任だった。それまで全日との交渉役を担ってきた永島氏は、「実は裏で絵を描いたのではないか」と社内で糾弾を受け、また、長州は管理不行き届きだとして現場監督を解任されてしまう。
ここに至ってついに長州は新日退団を決意し、永島氏とともに新団体の旗揚げへと舵を切った。その際、週刊ゴングからの取材を受け、表紙を飾ったのがインタビュー中の言葉「俺が業界のど真ん中を突っ走ってやる」であった。格闘技に傾倒する猪木影響下の新日でもなく、アメリカンプロレス志向の強い武藤の全日でもない。新日の源流であるストロングスタイル、力道山から始まった日本式プロレスの保守本流を、俺が継承するという決意表明だった。
天龍との6連戦は3戦目で中断
そうして生まれた新団体のWJプロレス(ワールド・ジャパン・プロレス)だが、すぐさま足並みが乱れる。新日において数々の仕掛けを打ってきた永島氏は、〝長州の弟子である佐々木健介の下剋上〟などのアングルを提案するが、長州は「そんなものいらない」「試合そのもので勝負する」と、あくまでも〝ど真ん中〟を主張した。旗揚げシリーズでは、長州vs天龍源一郎のシングルマッチ6連戦という、飾り気のない硬派な試合のみが目玉とされた。その緒戦となった03年3月の横浜アリーナ大会は、PPV放送向けにザ・ロード・ウォリアーズが参戦したり、大仁田厚と越中詩郎の電流爆破マッチが行われたりしたが、全8試合中の6試合は長州の言葉の通り、因縁もあおりもない真っ向勝負(シングル5戦、タッグ1戦)となった。
だが、この長州の〝ど真ん中路線〟に対するファンの反応は、決して芳しいものではなかった。なるほど、第1試合の石井智宏vs宇和野貴史は、長州のハイスパートスタイルを踏襲する激しいぶつかり合いとなったが、同じような試合ばかりが続いたのでは、どうしても飽きがくる。
しかも、肝心の主役である長州は、新日でセミリタイア状態だったこともあって明らかに精彩を欠き、天龍とのシングル6連戦も3戦目を終えたところで中断となってしまった。公式発表は〝天龍のケガ〟であったが、これが長州の体調不良によるものであったことは、のちに長州自身も言明している。
結局、WJは2年ともたずに活動停止となる。その理由として団体運営の不手際や金銭トラブルを取り沙汰されたりもするが、一番の原因としてはやはり、リング上がつまらなかったことに尽きる。
自身の成功体験をもとにした価値観を押し付ける…そんな長州自身が嫌った猪木のやり方を、長州もまた周囲に対して行ってしまったゆえの悲劇的な結末であった。
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