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『いきなり!』との「格安ステーキ戦争」勃発!『やっぱり』が“イケイケ”な理由とは?~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

東京を中心に格安ステーキ店の勢力図が変わりつつある。きっかけは新たな競合チェーンが、殴り込みをかけてきたことだ。コロナ禍で飲食店が苦境に立つ中、加熱する「格安ステーキ戦争」の最前線に迫った。フードアナリストが言う。

「都内の格安ステーキ業態に異変が起きたのは、昨年6月、沖縄を本拠地とするステーキチェーン『やっぱりステーキ』の都内1号店が、吉祥寺にオープンしたからです。以来、都内に新店舗を展開し、既存の格安ステーキ店『いきなり!ステーキ』と、熾烈な戦いを繰り広げています」

では、ステーキ戦争に火をつけた『やっぱりステーキ』とは、そもそもどんな店なのか。

「地元の沖縄で人気の『やっぱり』は、ステーキ150グラムから200グラムが1000円前後。しかも、スープ、サラダ、ご飯、食べ放題付きで、赤身肉に力を入れているのが大きな特徴です」(同)

一般的に硬いイメージの赤身肉だが、店名が冠された「やっぱりステーキ」は、ミスジという牛の肩甲骨の下にある部位を使用しているため、食べると驚くほど柔らかい。それでいて味わいは濃厚だ。

『やっぱりステーキ』を展開している『ディーズプランニング』は、2015年、沖縄県那覇市に1号店をオープンさせ、現在は全国70店前後まで急成長を遂げている。経営コンサルタントが明かす。

「同グループが格安ステーキを提供できるのは、さまざまな工夫と努力があるからだ。例えば、居抜き物件を活用するなど、ローコストでの店舗展開を進めたこと。さらに、肉の大量仕入れなどで原価を抑えていることなどです」

イケイケの勢いがある『やっぱりステーキ』

だが、東京の格安ステーキ店といえば、その草分けともいえる存在が『ペッパーフードサービス』(東京都墨田区)が運営する『いきなり!ステーキ』だ。現状、どうなっているのか。

「13年、東京・銀座に『いきなり!』の1号店がオープン。その際、低価格でステーキを提供するために取った手法が、コストを軽減させる立ち食いスタイルだった。結果、その斬新さがマスコミでも大きく取り上げられ、一気に知名度アップ。連日、どの店舗も大盛況となりました」(同)

しかし、同じ商圏内で店舗が競合するなど、戦略なき急拡大による弊害が続出。また、相次ぐ値上げでコストパフォーマンスの魅力が薄れ、徐々に客離れが起きた。19年には27億円の赤字に転落し、大ピンチに陥ったことは記憶に新しい。

「窮状が続く『いきなり!』は、不採算店の撤退やリストラ、メニューや価格の見直しなど、大胆な再建策を次々と打ち出した。また、テイクアウトやデリバリーにも力を入れ、来期以降は黒字化の可能性も見えてきた」(同)

しかし、その矢先に台頭してきたのが『やっぱりステーキ』で、今後、都内各地での衝突は避けられない情勢となっている。飲食業関係者が解説する。

「目新しい『やっぱり』にイケイケの勢いがあるのに対し、まだ『いきなり!』には苦しいときの負のイメージが付きまとう。それだけに『いきなり!』は今が踏ん張りどきだ」

また、『ステーキ屋松』の存在も見逃せない。同店は牛丼チェーン店『松屋』を運営する『松屋フーズホールディングス』(東京都武蔵野市)が、19年、東京・三鷹に1号店をオープンさせ、現在は都内を中心に店舗展開を進めている。

ステーキなら牛丼1杯より2倍近い粗利

「同グループが格安ステーキ店に進出した理由は、牛丼業態の出店可能立地が、飽和状態になってしまったからです」(同)

牛丼店は、通行量が多い地域への新店進出がベスト。多数の顧客を確保することで、牛丼を低価格で提供しても採算が合うからだ。ところが、最近はほとんどの好立地に出店済みで、新規出店が難航することが多く、牛丼チェーン各社は頭を抱えている。

「通行者がそれほど多くない地で、利益の出る外食とは何かと頭をひねった末、浮かんだのが格安ステーキ店だった。ステーキなら牛丼1杯より2倍近い粗利が確保できる。近い将来、日本が人口減少問題に直面することは必至で、格安ステーキ店への進出は『松屋』グループの生き残り戦略でもある」(前出・経営コンサルタント)

『ステーキ屋松』の価格は、他チェーンと同様にステーキセットが1000円前後だが、厳選されたアンガス牛を使用している。北中米の牛は穀物を多く食べるため、肉にコクが出て日本人好みともいわれ、今後、人気がジワリ高まることが予想されている。

かつてステーキといえば値段が高く、晴れの日の食事という印象が強かった。しかし、絶好調の『やっぱりステーキ』は「町のラーメン店同様の大衆食を目指す」と豪語する。

その勢いを前に元祖格安店の『いきなり!ステーキ』と牛肉を知り尽くした『ステーキ屋松』が、どう差別化を図り、迎え撃つのか。東京の「格安ステーキ戦争」から目が離せない。

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