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蝶野正洋『黒の履歴書』~昭和時代に多かった暴走するプロレスファン

蝶野正洋
蝶野正洋 (C)週刊実話Web

ビートたけしさんが、テレビ番組の出演後に車に乗って帰ろうとしたところ、つるはしを持った不審な男に襲われたという。

まるでバイオレンス映画みたいな事件だけど、とにかくたけしさんが無事で何よりだった。たけしさんは芸人としてカリスマ的存在だし、歯に衣着せぬ発言も多いから、熱狂的なファンもいればアンチもいる。今回の犯人の動機や事件の詳細はまだ分かっていないみたいだけど、常に誰かから狙われているということは間違いない。

いきなり襲ってくるやつらというのは、群衆にまぎれていると普通のファンと見分けがつかないから、未然に防ぐということが難しい。だから、何が起こっても対処できるように警備を強化するしかない。

最近はいないけど、俺が若い頃のプロレス界は、興奮したファンが選手を殴ったり、モノを投げたりするマナーの悪い客が多かった。選手を襲って名を上げてやろうという、道場破りみたいな輩もいたからね。そういうやつから選手を守るのは、新弟子の役割なんだよ。

大変なのが試合前の入場時。地方会場だと、リングまで向かう花道にフェンスがついてないから、選手が登場するとお客さんがなだれ込んでくる。選手に近づいて、チョップでも入れてやろうと、攻撃する輩がいた。若手だった頃の俺は選手をガードというか、暴徒化したファンに肘鉄をバンバン入れて選手を守ったよ。

試合中も気が抜けない。当時はヤジもひどかったし、酔っ払って客席で暴れるようなやつもいた。そういうマナーの悪い客を見つけたら、首根っこをつかんで、会場の外に追い出すのも若手の役割なんだよ。俺はリングサイドでセコンドについているときも、常に会場を見回して「今日は変なやつはいないかな」って捜していた。

「テメー、何くだらないことやってんだ!」

試合が終わっても油断できない。興奮した客が会場の外で待っていて、何か仕掛けてくることがある。

俺が(アントニオ)猪木さんの付き人をやっているとき、試合後に猪木さんがタクシーに乗ろうとしたら、誰かが生卵を投げつけてきたことがあった。俺は猪木さんを車に乗せる役割だったから、一緒に車に乗って脱出したが、他の若手は怒り狂って犯人を捜していた。その後、どうなったかは知らないんだけど、もし犯人が捕まっていたらかなりつめられただろうね。

狼軍団というヒールユニットを組んでいたとき、俺自身も、試合後に襲われたことがある。ヒールは若手がつかないから天山と2人で行動していたんだが、会場を出たらファンに囲まれてしまい、身動き取れなくなったところに誰かの手がスッと俺の股間に伸びてきて、金玉をグッと握られたんだよ。

反射的にその手をつかんで引き寄せて、ストレートパンチを食らわせてしまった。それで「テメー、何くだらないことやってんだ!」って怒鳴りつけたら、周りの客がバーッと引いて静かになり、怒りながらタクシーに乗って帰った。ちょっとやりすぎたかなと思ったけど、まぁ、これは正当防衛だから許してほしい。

とにかく、どんなに強い男でも、いきなり襲ってこられたら対処できない。だからこそ、周りが気をつけて守っていく態勢を作っていくしかないよね。

蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。

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