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安田忠夫「俺はなんで生きているんだ?」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”

安田忠夫
安田忠夫 (C)週刊実話Web

大相撲時代には小結まで昇進し、横綱・双羽黒(北尾光司)から2つの金星を挙げた安田忠夫は、プロレス転向後もIWGP王座に君臨。しかし、ギャンブルまみれの自堕落な生き方は、そんな輝かしい経歴をかすませるほどひどかった。

9月になって、YouTubeチャンネル『安田忠夫の人生劇場』の配信中止が発表された。その最後の動画に安田自身の出演はなく、現在アップされている動画も9月末ごろには削除される予定だという。

2018年から3年続いたチャンネルを終了させる理由については、「安田と担当者の方向性の違い」としか語られていないが、担当者があえて「安田の体調不良でコラボが中止になった」などと言及しているあたりを見ると、何かしらの不義理が安田側にあったようにも推測できる。

11年の「日本とプロレスにおさらばします」と題した安田の引退興行は、シングル2戦、タッグ1戦に出場してすべて敗戦という異例の結果に終わった(対戦相手は曙、天龍源一郎、鈴木みのる&高山善廣)。

以後、リングを離れた安田は、ケンドー・カシンの実兄が経営する養豚場、パチンコ店、元新日本プロレス社長の草間政一氏に紹介された太陽光発電パネルの営業、カンボジアのカジノ、タイのカラオケ店など、さまざまな職を転々としており、数年前には地下鉄某駅で警備員をしているという情報も流れた。

しかし、そうやって働く姿よりも、公営ギャンブル場やパチンコ店でよく目撃されており、安田の巨漢はひときわ目立っていたようだ。

ジェロム・レ・バンナから大金星も…

01年の大みそかに格闘技興行『INOKI BOM-BA-YE』のメインイベントに大抜擢され、K-1ファイターのジェロム・レ・バンナから大金星を挙げた安田は、新日でもIWGP王者、魔界倶楽部のリーダーとして活躍したが、05年1月には素行不良を理由に解雇されている。

無気力、怠惰、稽古嫌いのギャンブル狂、これが大方の安田に対するイメージだろう。大相撲で小結にまでなりながら28歳で廃業したのも、ギャンブルによる借金問題が一因にあったといわれる。

ちなみに、21年の大相撲九月場所では、高安と逸ノ城が小結。大相撲時代の安田(四股名は孝乃富士)はそのレベルにあり、同部屋で同期入門、同学年の北勝海に至っては、現在、八角親方として日本相撲協会の理事長を務めている。

そんなことから、安田を「ダメ人間」と評する声も多いのだが、しかし見方を変えると、精神医学の世界ではギャンブル狂は性格の問題ではなく、れっきとした「ギャンブル依存症」という病気だとされている。

その症状は「ギャンブルをしないことには気持ちが落ち着かず、ギャンブルのためにウソをついたり仕事をさぼったりする」といったもの。安田の無気力さやなまけ癖が、依存症に由来する精神的な疾患からきたものだとすれば、確かに辻褄は合いそうだ。

多額の借金を抱えていながら「なんとかなるさ」と笑っているイメージもあった安田が、07年に練炭自殺を図ったのも、精神疾患からくる突発的なものだった可能性はある。

プロレスの“裏側”を平然と明かす…

事件発覚後「1人で〝エア焼肉〟を楽しんでいたら、そのまま寝てしまった」と冗談交じりに弁明した安田だが、一酸化炭素中毒による昏睡状態から目覚めた瞬間に、「俺はなんで生きているんだ?」と話したというから、一時的とはいえ死の誘惑に駆られていたことに違いはないだろう。

普段は明るく振る舞っている人でも、ストレス要因により突発的に精神状態が悪化することは、精神疾患の患者によくある事例だといわれる。

もし早い段階でカウンセリングを受けるなどして、依存症を克服していたならば、「才能だけで小結まで昇進した」と揶揄される安田だけに、プロレス界でもっと活躍したかもしれない。

しかし、冒頭で触れたYouTube番組では、いわゆるプロレスの仕組みをミスター高橋の暴露本以上に、具体的かつ詳細に話している。自身が決め技としていたタイガードライバーについても、「ちゃんと持ち上げれば相手は痛くもなんともない」などと語る様子からは、プロレスへの愛情がまったく感じられないのも事実である。

ギャンブル依存症が原因か否かはともかく、借金苦、離婚、数々の転職や自殺未遂などの苦労に見舞われ続けた安田。相撲やプロレスで確固たる地位を築くことはなかったが、動画の中で笑いながら話す姿はそれなりに楽しそうであり、これもまた一つの人生ではないかと思ったりするのである。

《文・脇本深八》

安田忠夫
PROFILE●1963年10月9日生まれ。東京都大田区出身。身長195センチ、体重130キロ。 得意技/タイガードライバー、突っ張り、ワンハンドチョーク、肩固め。

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