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自民党総裁選「緊縮」同士の争い~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、河野太郎ワクチン担当相、そして野田聖子幹事長代行と、自民党総裁選の候補者が出そろった。今回は、経済政策の面だけで、有力3候補を評価してみよう。

まず河野氏は、以前から財政緊縮の発言をしてきたが、結局、路線変更はなされなかった。

9月10日の出馬会見で個人を重視する経済政策を掲げながら、具体策として出てきたのは「労働分配率を一定水準以上にした企業に、法人税の特例措置を設ける」というものだった。個人を重視するなら、個人の減税をすべきだが、法人減税という自民党が続けてきた政策のままなのだ。

また、安倍政権が導入した2%のインフレ目標政策についても、「インフレ率は経済成長の結果からくるものだ。達成できるかというと、かなり厳しいものがある」と述べて否定した。つまり、河野政権が誕生すると、財政・金融の同時引き締めになる可能性が高く、景気は失速するだろう。

岸田氏は、「小泉改革以降の新自由主義的な政策を転換する」と格差是正を訴え、数十兆円規模の財政出動を打ち出した。だが、中身が明らかになっている国民支援策は、子育て世帯を対象にした住居費・教育費支援だけだ。

候補者の中で、最も財政出動の可能性が高いのは、「アベノミクス」の継承を掲げる高市氏だ。高市氏は、大規模な金融緩和を継続するとともに、2%の物価目標を達成するまで、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標を凍結するとしている。ただし、現時点では財政出動の規模や内容が明らかになっていない。

また、安倍政権が政策の三本の矢の一つに「財政出動」を掲げていたのに対して、高市氏は「緊急時の機動的な財政出動」としており、緊急時に限定だ。しかも、「増税は現状では難しいが、減税も難しい」と発言している。

日本政府が抱える“純粋な借金”はゼロに近い

私は、最も効率的かつ効果的で公平な景気対策は、消費税の撤廃だと考えている。30兆円程度の財源があれば実現できるうえ、撤廃であれば大規模なシステム投資も不要で、即座に実施できるからだ。しかし、誰が自民党総裁になっても、そうした政策が採られる可能性は、ゼロだ。

自民党自体が一般国民よりも企業の方を向いていることや、最も利権を生まない対策が、実は消費税減税であるという理由がすぐに思い浮かぶ。ただ根本的な理由は、日本の財政事情が深刻だと、彼らが考えているからだろう。

しかし、事実は異なる。財務省が発表している『国の財務書類』という統計によると、連結ベースで昨年3月末の国の負債は1546兆円だ。

一方、日本政府は1023兆円の資産を抱えているから、ネットの負債は523兆円と2020年度のGDP(国内総生産)537兆円を下回る。しかも、昨年3月末で日銀が保有している国債は486兆円だ。

日銀が保有する国債は、借り換えを繰り返せば返済の必要がなく、支払った利息も政府に還ってくる。つまり、国債は日銀が買った瞬間に借金ではなくなるのだ。そこで、純負債から日銀の国債保有分を差し引くと、日本政府が抱える純粋な借金は37兆円と、ほとんどゼロに近い。

海外の純負債の統計がないので、正確なことは言えないが、日本の財政は主要国のなかで最も健全だ。だからこそ、日本の国債金利はほぼゼロなのだ。

財政の健全性を無視して、緊縮政策を続けたことが、日本経済失速の原因なのに、誰もそれを言わないのは、一体なぜなのだろうか。

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