アントニオ猪木「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”
「大一番に臨んでの意気込み」「死力を尽くして戦った後に思わず漏らした本音」「自己アピールのため練りに練った発言」など、プロレス界における数々の名言は、レスラーの本質を映し出す鏡であり、時に、リングでの試合よりもファンの心に語りかけてくる。
「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」
アントニオ猪木の闘魂、ストロングスタイルの精神をあらわした最も有名な言葉の一つであろう。
仕事や遊びの場において冗談半分で口にしたことがあるという人も、きっと多いのではないか。ただし、このセリフは完全なる猪木オリジナルではない。
かつて日本ボクシングコミッション(JBC)が発行していた王者認定書には、「いついかなる時でも、誰の挑戦でも受けなければならない」と記されていたという(実際は、相手がどんな挑戦者であろうと「組まれたマッチメイクを受ける義務」の規定)。
1972年に東洋王者時代のガッツ石松が、池袋の乱闘でチンピラ8人をノックアウトして逮捕された際も、事情聴取で「賞状にそう書いてある」と主張している。
古くからの武士の心得として伝わる、「常在戦場(常に戦場にいる気持ちで、緊張感を持って事にあたらなければならないとの意味=出典不明)」の精神に通じるものともいえる。
アントニオ猪木のジャイアント馬場への反発
この主旨に沿った猪木の発言の最も古い記録の一つに、66年10月12日、東京プロレスの旗揚げ戦でジョニー・バレンタインに勝利した後のコメント、「誰の挑戦でも受けます。一般の人でも構わない」というものがある。新団体の若きエースとして意気込みを表明したのと同時に、なんなら宣伝の一環として素人挑戦イベントの開催なども念頭にあったのかもしれない。また、さらに加えて、この半年前、日本プロレスでジャイアント馬場への挑戦を表明しながら、受け入れられなかったことへの反発もあったに違いない。つまり「馬場は挑戦を受けなくとも俺は受ける」という一種のあてつけである。
73年12月10日、ジョニー・パワーズを破ってNWF世界ヘビー級王者となった試合後には、「誰の挑戦も受けられるチャンピオンになる」とコメントしている。
新王者としての気概をあらわしたのと同時に、挑戦すらさせてもらえない世界最高峰のNWA王座への皮肉も混じったものであろう。
これは後年、IWGP発足に先駆けての「NWAを超える組織をつくって旗揚げし、誰もが認める世界タイトルを争ってみたい」とのコメントにもつながっていく。
また、柔道五輪金メダリストのウィリアム・ルスカとの対戦が決まった際には、「プロレスが格闘競技の王者であることを見せるために挑戦を受けました」と宣言し、本命のモハメド・アリ戦を控えての強豪との対戦を危惧する声に対して、「誰の挑戦でも受ける」の精神を示している。
「あの試合は格闘技戦ではなくプロレスだった」との評もあるが、ルスカが心変わりしてガチンコを仕掛けてくる可能性もゼロではなかっただけに、猪木が相当な覚悟で試合に臨んだことには違いあるまい。
この時期の猪木は、実はまだ馬場やNWA王者、そしてアリなどに挑戦を表明する側の立場であったにもかかわらず、あえて「誰の挑戦でも受ける」と言っていた。
いわばハッタリでもあるのだが、しかし、これを繰り返すことで自分自身を鼓舞するとともに、ファンはそんな猪木の姿に夢を託すこととなった。
しかし、後年にはこの言葉が一種の足かせのようになり、「なぜ前田(日明)の挑戦は受けないのか」などと非難の材料になることもあった。
ファンが感じた“落日の猪木”
この件について猪木本人は、引退後の前田との対談で「逃げたんだよ」と語っている。当時の関係者からは「あのとき猪木と前田が戦ったとして、猪木が勝てばUWF軍との抗争の価値が下落するし、負ければ興行やテレビ視聴率に悪影響が出てしまう。あいまいな決着ではコアなファンが納得せず、いずれにしても得策ではない」などと、猪木自身が逃げたというよりも、周囲の事情でそうなったとの見解も聞かれる。
だが、結果的に戦いを避けたことには違いなく、加齢や体調面でパフォーマンスが落ちてきた時期とも重なって、ファンに“落日の猪木”を感じさせることとなった。
逆に挑戦を受けたことがマイナスに働いたのが、87年12月27日、たけしプロレス軍団の求めに応じて敢行したビッグバン・ベイダー戦で、ファンの望まぬ試合を行った結果、暴動騒ぎにまで発展してしまった。
また、明確に猪木自身の意思で、挑戦を受けなかったのが大仁田厚である。大仁田は、引退後の猪木に対して事あるごとに対戦を迫ったが、猪木はこれにまったく応じようとしなかった。
戦いの中に真の強さを求めてきた猪木からすると、大仁田の邪道スタイルはその美学に合わなかったということだろう。
他にも、知る人ぞ知る空手の強豪から生死を懸けた果たし合いを申し込まれるなど、「誰の挑戦も受ける」といった大言壮語は相応のリスクがついてまわるものであり、それを“本気”で言ってのけた猪木の胆力には、あらためて驚かされるのである。
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