新型コロナウイルス禍により大打撃を受けている外食産業で、ハンバーガー業態への新規参入が目立っている。現在、特に都市部では、ハンバーガー店が雨後のたけのこのように林立している状態だ。
8月23日には、通称〝トリキ〟こと焼き鳥居酒屋の『鳥貴族』を全国展開する『鳥貴族ホールディングス(HD)』(大阪市)が、東京・品川にチキンバーガー専門店『TORIKI BURGER(トリキバーガー)』をオープンした。
フードアナリストが言う。
「焼き鳥とはまったく畑違いのハンバーガー店を出店した背景には、本業の鳥貴族が緊急事態宣言で休業、時短を強いられ、売り上げが急減していることがある。例えば今年7月だけを見ても、対前年比約6割減で今期の赤字は必至です」
そこで目をつけたのが、外食産業でコロナ禍への耐性が強いと受け止められているハンバーガーだ。
中でも、独り勝ちしているのが『日本マクドナルドホールディングス』(東京都新宿区)で、今年2月に発表した2000年12月期(20年1月~12月)の決算では、売上高が前年比2.3%増の2883億円、当期純利益が同19.6%増の201億円と、増収増益を達成した。
「新型コロナウイルス感染拡大の影響で、店内飲食は前年比で減少したが、テイクアウト、ドライブスルー、デリバリーの売り上げが増加しました」(同)
マクドナルド好調の理由はどこにあるのか。経営コンサルタントは次のように分析する。
外食支出が減る中で“耐えた”ハンバーガー
「同社の売り上げ増には、モバイルオーダーシステムの導入や『ウーバー・イーツ』などデリバリーサービスの活用が貢献しています。だが、実際のところは3密回避でテイクアウトしやすく、価格も手ごろなハンバーガーが、コロナ禍におけるメニューとしてピタリと当てはまったことが大きい」
それを裏付けるデータがある。総務省統計局が発表した20年度の『家計調査年報(家計収支編)』だ。
「この統計によれば、20年の2人以上の世帯における一般外食の支出金額は12万921円で、19年の16万6712円と比べると27.5%も減少している。これはコロナ禍における巣ごもりの影響で、ほぼすべての外食産業で支出金額が減少している中、逆風に耐えたのがハンバーガー業態だった。20年は5100円となり、前年比11.5%も増加したのです」(同)
これらの統計を分析した外食産業各社が、ハンバーガーに興味を抱き、前出の鳥貴族HDのように新規参入の動きを見せるのは当然の流れともいえる。
『TORIKI BURGER』はターゲットとなる10代から20代の女性を意識して、店内を白と黄色の明るい空間に統一。フライドチキンをバンズ(丸パン)で挟んだ主力商品の「トリキバーガー」や、鶏もも肉の照り焼きを使った「焼鳥バーガー~てりやき~」など、多彩なメニューを取りそろえている。
しかも、100%国産の原材料を使うことで、他社との差別化を図り、今後の3年間で10~20店舗の増店を計画。狙いは全国展開だという。
ハンバーガー業態に新規参入を試みたのは、当然ながら鳥貴族HDだけではない。前出のフードアナリストが解説する。
味と適正価格と独自性がカギ
「ファミリーレストランの『ロイヤルホスト』などを展開する『ロイヤルホールディングス』(福岡市)が、今年5月、アメリカ発のバターミルクフライドチキン専門店『ラッキーロッキーチキン』の1号店を東京・品川にオープンしました。10月中旬には、東京・吉祥寺に2号店を出店する予定です」
バターミルクフライドチキンとは、鶏むね肉をバターミルクに一晩漬け込み、柔らかくしっとりさせてからフライドチキンにしたもの。これをバンズと野菜で挟んだ新感覚のハンバーガーとして提供し、若者を中心に大好評だという。
昨年11月には1人焼肉チェーン『焼肉ライク』などを手がける『ダイニングイノベーション』(東京都渋谷区)が、テイクアウト専門店『ブルースターバーガー』を東京・中目黒に新規オープンした。
「専用アプリで事前オーダー、キャッスレス決済が可能。店内のピックアップ専用棚で商品を受け取る仕組みで、コロナ禍を意識しての完全非接触型店舗として注目されています。取りあえず国内で2000店舗の展開を目指すと、同社は鼻息が荒い」(同)
地方でも小規模ながら、新規参入のハンバーガー店が続々と出店している。飲食業界関係者が言う。
「今後は全国的な〝ハンバーガー戦国時代〟に突入する。これを生き残るには、企業の大小よりも味と適正価格、そして、どれだけ独自性を打ち出せるかがカギになってくると思います」
1971年7月、東京・銀座にマクドナルド1号店がオープンしてから50年、ハンバーガーは未曾有のコロナ禍と直面し、いま新たな地平に立つ。
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