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落語家・六代桂文枝“シャレもさえる強者の打法”~灘麻太郎『昭和麻雀群像伝』

桂文枝
桂文枝 (C)週刊実話Web

テレビの長寿番組『新婚さんいらっしゃい!』をはじめ、かつて高視聴率をマークした『ヤングおー!おー!』『パンチDEデート』など、桂文枝は長年にわたり全国区のテレビタレントとして活躍してきた。

2012年に上方落語の大名跡を襲名するまでは、長らく桂三枝の名義で活動していたため、いまだにそのほうがなじみのある方も多いだろう。

タレントとして早くから頭角を現した文枝だが、当初は本業の落語が注目されることは少なかった。しかし、古典ではなく新作(あえて「創作落語」と呼ぶ)にウエートを置くようになると、落語での評価も急上昇していった。

多忙を極めながらも、自分の立ち位置を客観的に判断できる。いい意味で、したたかな芸人なのだ。

文枝のしたたかさは、麻雀においても存分に発揮される。それは緻密な面と、おおらかさが絶妙にブレンドされている点で、前者でいうならアガりの点数にこだわらず、必要とあれば1000点でもあっさり和了してしまう。

小さなアガりを馬鹿にする打ち手がいるが、文枝は他家の大物手を封じながら、次なる飛躍を目指すためにも小アガりを重視する。

安い点数を嫌がる人は、麻雀道が分かっていない連中である。そう広言してはばからない。

さらに、いったん降りると決めたら中途半端ではなく、徹底的にベタ死にする。自分に風が吹いていない状況で無理に突っ張っても、墓穴を掘るだけ…文枝麻雀の極意の一つは、耐えることにある。

一方、おおらかさの代表的なものとして、アガり点数を正確に把握していないことが挙げられる。

割れ目ルールはめっぽう強いが…

雀歴数十年を誇るものの、いまだに点数計算はすべて人任せ。それで点数をごまかされたところで、まったく意に介さない。しょせん、その程度の相手でしかないと、セコい連中と対局した自分を叱る。

なぜ、点数に関してアバウトなのかといえば、「賭け事は全般において、浮くか沈むかしかない。芸人は浮草稼業なので、麻雀を打つ場合でもその精神に忠実でありたい」というのが文枝の信念なのである。

昨今、流行している何でもありのルールには、否定的な立場を取っているが、その反面、ドラ牌は多ければ多いほど楽しみが増えるとして、「よろし、おまっしゃろ」と寛大な一面を見せている。

以前は麻雀バラエティー『THEわれめDEポン』から、お座敷がかかることも多かった。同番組では、最初からドラが2通り(裏ドラも同様)ある。面前の手作りに一日の長がある文枝は、生来のドラ好きということも手伝って、割れ目ルールはめっぽう強い。

ただし、テレビを意識してか一手ごとに長考する出演者が多く、文枝はそんな打ち手がいると次第にじれてくる。はるかに雀力が劣るタレント相手に、なぜか勝てないケースがあるが、それは文枝が待ちくたびれて、勝負に固執しなくなったときであろう。

たかが麻雀、なぜそんなに時間をかけなければいけないのか。頭の回転と判断力の早さを競うのが麻雀のゲーム性ゆえ、プライベートでは絶対に遅い打ち手とは卓を囲まない。

摸打がスピーディーで、そのうえ遠慮せずに三味線を弾き合える。そんな仲間が望ましい。相手の腹の底を洞察しながら麻雀を打つことが、文枝にとって理想のひとときなのだろう。

「さあ、モンローちゃん、いらっしゃ~い」

私は文枝と、東京と大阪で何度か対局している。

よく分かりきった小細工をして、執拗に対戦相手を引っかけようとする人がいるが、それに比べて芸人の三味線には洒落があり、打っていてなかなか楽しい。

西家の私がツモり三暗刻でリーチをかけた。このリーチに、文枝が一筒を振ってきて、ロン!

「なんや、筋は通ると思うたのに、先生、ボウリングでっか?」

待ちは一筒と二索のシャンポン。さすがにこれは面白い洒落だと感心した。一筒がボールで二索はボウリングのピンというわけだ。

南家のオール阪神が三索をポンして、索子のチンイツをやっていた。親の文枝も降りるわけにはいかないとばかりに、6巡目、早いリーチに出た。ドラ七萬の2枚含みで、待ちは五、八筒である。

阪神は六索が出て考え、七索でう~んと唸り、「食えんがな、ホンマに」と呟いている。

テンパイではないとみて私が九索を打ったら、ロンでハネ満。一瞬、ムッとしてしまった。

「食えないなんて…」

「箸(八、四)がないさかい食えへん」

つまり、八索と四索がないから、食えないとはうまい洒落だ。

南場3局、マイナス6000点で西家の文枝は、萬子5枚から一気通貫の決め打ちに出てテンパイ。8巡目、ドラ四索2枚の手だけにヤミテンでも満貫だったが、どうせ浮きに持っていくならトップまでと考えたか、9巡目にリーチ。

「さあ、モンローちゃん、いらっしゃ~い」

と、ツモること5回目に、バシッと五萬を卓に打ちつけてハネ満ツモ。モンローとは外国人の女性、ウーマンの洒落だったのだ。

(文中敬称略)

桂文枝(かつら・ぶんし)
1943年7月16日生まれ。関西大在学中から落語を始め、66年、三代目桂小文枝(のちの五代目桂文枝)に弟子入り。若手の頃からテレビ、ラジオで売れ、全国区の人気者となる。上方落語協会会長(2003年~18年)。自作の創作落語は300本に及ぶ。

灘麻太郎(なだ・あさたろう)
北海道札幌市出身。大学卒業後、北海道を皮切りに南は沖縄まで、7年間にわたり全国各地を麻雀放浪。その鋭い打ち筋から「カミソリ灘」の異名を持つ。第1期プロ名人位、第2期雀聖位をはじめ数々のタイトルを獲得。日本プロ麻雀連盟名誉会長。

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