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通販市場初の10兆円突破!“アマゾン一強”舞台裏~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

2020年度(20年4月~21年3月)はネットを中心とした通販市場が急成長し、売上高は10兆6300億円と、初めて10兆円の大台を突破した。その背景を通販業関係者が詳述する。

「日本通信販売協会(JADMA/ジャドマ)が金融、旅行以外の物販販売を主にまとめた20年度の通販売上高は、額にして対前年比1兆7800億円増、率にして同20.1%増の10兆6300億円となった。19年度の伸び率が8.2%増なので、20年度の20%超えは驚異的です」

10兆円は百貨店の倍以上の市場規模となる。新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣ごもり需要により、特に家電や食品の販売が好調で、外出せずに利用できる通販は「独り勝ち」の様相を呈している。

では、個々の企業においてはどうだろうか。経済産業省関係者が解説する。

「世界最大の通販企業の日本版で、ここ数年、独走を続ける『アマゾンジャパン』(以下、アマゾン)は相変わらず強い。20年もトータル売上高は前年より約28%伸び、約2兆1600億円に達した。この額は国内通販売上高の2割を占め、まさに群を抜いています」

そのアマゾンに続くのは、事務用品の通販で伸びてきたソフトバンクグループ系列の『アスクル』だ。21年5月期第3四半期(20年5月~21年2月)連結決算は、売上高が前年同月比4.5%増の3130億300万円となり、第3四半期で初めて3000億円を突破している。

「資生堂グループの化粧品通販『ワタシプラス』や工具通販大手の『モノタロウ』なども、他社が取り組めない商品を軸に販売して上位に食い込んでいる」(同)

消費者の心を動かした一律10万円の特別給付金

だが、前出の通販業界関係者は、20年の市場動向をこうも分析する。

「アマゾンの好調は目を見張るものがあるが、20年の通販業界の勝ち組は、一部の家電量販店や家電専門の通販企業だと思います。その理由は一律10万円の特別定額給付金で、普段なら購入に二の足を踏む高額商品、例えば4Kテレビや冷蔵庫、洗濯機などの大型家電や、空気清浄機、マッサージチェアなど美容・健康家電の購入に、消費者が踏み切ったからです」

また、これらの購入で通販の便利さに目覚め、コロナ禍も相まって通販利用者が増加したという。

確かにヨドバシカメラが前期比60.3%増と驚異的に伸びたのをはじめ、ビックカメラも同37.0%増、上新電機が同25.5%増と大きく躍進。通販専業でもジャパネットたかたが同15.8%増、ストリームが同25.4%増と大幅増収を果たしている。

しかし、なぜヨドバシカメラだけが突出して伸びたのか。経営コンサルタントが解説する。

「ヨドバシカメラは、他社がまだ紙ベースのカタログ販売に頼っていた1998年に、ネット通販事業を立ち上げました。ネット通販の草分けである楽天が97年なので、ヨドバシカメラも相当早かった。それだけに他社のネット通販よりも、見せ方やPRなどが頭ひとつ抜けています」

もちろん他社も、ヨドバシカメラの躍進を傍観しているわけではない。

「ビックカメラは18年から、楽天と共同で通販サイトを運営している。さらに、ネット通販用の物流施設を大幅に拡張し、荷物の発送能力が2倍にアップした。22年までにはネット通販の売上高を2000億円まで高め、全体の2割程度まで引き上げる計画だ」(同)

すべての通販企業がデパート化

さて、通販事業全体の話に戻ると、家電以外では健康食品の伸びが目立っている。前出のJADMAが5月に公表した統計では、2020年度の売上高を合算すると1712億3100万円となり、前年同期比で7.6%増加している。健康食品専門の通販業者が言う。

「はちみつやプロポリス、ローヤルゼリーなど意外な商品が伸びました。コロナ禍ということもあり、抵抗力の増加に効果がありそうな商品は伸びたようです」

今後、通販市場はどう動くのか。前出の経営コンサルタントが言う。

「著しい伸びで最も注目されているヨドバシカメラは、アウトドア用品や酒類をはじめ、家電以外の商品の品ぞろえを着々と強化している。この流れは他の通販企業も同じで、他社に負けない主力商品を軸に、垣根なしにあらゆる商品を扱うことが、時代の潮流になっています」

つまり、すべての通販企業がデパート化して、なんでも売る傾向が強まっているわけだ。狙いはアマゾン一強を崩し、百貨店などの利益に食い込むことだろう。これに対してアマゾンは、どう迎え撃つのか。

「アマゾンは都市部を中心に、生鮮食品の配達を手がけ始め、いまやスーパーの領域にまで切り込もうとしている。この手法が定着すれば、日本の小売業は根本から変わらざるを得なくなります」(同)

いずれにしても日本の通販市場は、長引くコロナ禍にありながら、当面さらに加速する気配であることは間違いない。

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