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ブレーキを踏めない米国と日本~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が8月27日に講演し、事実上のゼロ金利政策である量的金融緩和策を年内に縮小させる可能性を示唆した。しかし、緩和縮小の具体的な計画は公表しなかった。

いまアメリカは、完全なインフレになっている。7月の消費者物価指数は、前年同月比5.4%上昇と、6月と同率の高い水準が続いている。不動産価格は17%上昇し、株価も最高値を更新してバブル状態だ。

どう考えても金融引き締めが必要なのに、FRBが先送りをするのは、金融引き締めがバブル崩壊を招き、景気が暗転するのを恐れているからだろう。

ブレーキを踏む勇気がないのは、日本も同じだ。菅義偉総理は「ワクチンが決め手」だとして、ワクチン接種が新型コロナの根本的解決をもたらすという立場だが、それが誤りであることが明らかになってきた。

分かりやすい証拠は、2回目のワクチン接種完了率が63%(8月25日時点)に達しているイスラエルで、7月以降に爆発的な感染拡大が起きていることだ。

そうしたことが起きる理由の1つは、デルタ株の感染力の強さだ。8月27日に東北大の本堂毅准教授と高エネルギー加速器研究機構の平田光司氏が発表した声明では、「エアロゾル感染が新型コロナの主たる感染経路と考えられる」と指摘している。そうであれば、数メートルの社会的距離を取るという対策では、感染を防げない。

愛知医科大学の森島恒雄客員教授は、デルタ株の感染力が、はしか並みに強いと指摘する。森島教授は、100人ぐらいが入れる教室で感染者が一番前に座っていたと仮定し、半日間、同じ空間にいた場合、インフルエンザであれば感染者の周囲3~4メートル以内の人が感染するのに対して、はしかであれば一番後ろの人まで感染するとしている。そうした状況で、政府は2学期の授業を始めたのだ。

事実上の“ゼロコロナ”を実現している中国

もう1つの理由は、ワクチンの持続効果だ。藤田医科大学が、ファイザー製ワクチンを接種した大学の教職員209人を対象に、血中の抗体量を調査した結果、1回目の接種から3カ月後の抗体の量は、2回目の接種から14日後と比べて約4分の1にまで減少したことが分かった。抗体量は、その後も緩やかに減少するので、ワクチンの効果に永続性がないことは明らかだ。実際にデルタ株では、ワクチン2回接種後の感染も数多く確認されている。

ワクチンの効果を否定するわけではないが、デルタ株と対峙するためには、やはりロックダウンと大規模PCR検査の併用が不可欠と言えるだろう。

私は、お手本は中国だと思う。中国の新規感染者数は、8月28日までの1週間平均で、1日あたり27人だ。中国の人口は日本の約10倍だから、日本に引き直せば2~3人しか感染者が出ていないということになる。事実上のゼロコロナを中国は実現しているのだ。

サーベイリサーチセンターが、8月13日から16日に都民1000人に対して行った調査で、今後に必要な感染拡大防止策を聞いたところ、ワクチン接種と短期的なロックダウンが53%で並んでトップとなっている。都民の多くが理解しているロックダウンに政府が踏み切れない理由も、経済的被害や補償に伴う財政負担だろう。

日米のブレーキの踏み遅れは、破局を予感させる。

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