エンタメ

『MINAMATA―ミナマタ―』/9月23日(木)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義

『MINAMATA―ミナマタ―』/9月23日(木)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義
Ⓒ2020 MINAMATA FILM, LLC/ⒸLarry Horricks

『MINAMATA―ミナマタ―』
製作/ジョニー・デップ
監督/アンドリュー・レヴィタス
脚本/デヴィッド・ケスラー
出演/ジョニー・デップ、真田広之、國村隼、美波、加瀬亮、浅野忠信、岩瀬晶子、ビル・ナイ
音楽/坂本龍一
配給/ロングライド、アルバトロス・フィルム

ジョニー・デップ主演で報道写真家のユージン・スミスが主人公の本作。日本の4大公害病の一つ〝水俣病〟が抑制の利いたトーンで描かれ、考えさせられることの多い映画でした。

本作を見る前にネットニュースで見たのですが、水俣市がこの映画の上映会の後援を断ったとのこと。負のイメージを蒸し返したくないのか、今でもチッソ(株)関連会社の企業城下町である状況が続いているから忖度したのか…いずれにしても、世界に知られたくない人もいるのでしょう。ちなみに熊本県は後援を承諾したそう。

50年経っても終わらない問題として、自分は今見るべきと推したいですが、それでもハリウッド作品だからか、当時の日本の描き方に首を傾げたくなる点も。例えば、戦時中の憲兵じゃあるまいし、昭和46年当時に制服姿の警察官が補償を求める活動家の自宅に乱入して、家の中のものをグチャグチャに壊すなんてことは、さすがにないだろうと。

それから、徹底的にリサーチして当時の水俣市をセルビア、モンテネグロに再現して撮影したとのことですが、ツッコミどころも。当時のトヨペットコロナを1台用意していたのはいいものの、トラックはどう見ても日本車じゃない。家屋のガラスの引き戸の桟が複雑すぎて、まるで中国。ちょっと惜しいですね。

こんなジョニー・デップを知らなかった

広島原爆の「黒い雨」訴訟が今年になってようやく決着したように、深刻な被害に苦しむ人々の救済は、今なお世界中で続く問題です。ただ公害となると、自分も含めて日本では一段落したと誤解しがちじゃないでしょうか。だからこそ、ジョニー・デップは「MINAMATAの物語を正しく伝えたい」と切望し、自らプロデューサーに名乗りを上げたそうです。正直、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の人とだけ認識していたので、こんなに社会問題に真摯に向き合っているとは知らなかった。彼の映画人としての姿勢は、ユージン本人に激似の役作りや、エンドロールのキャスト紹介が本作への登場順になっていて、主役だから一番上というわけではなかったことからも察せられます。

よくありがちな「政府と企業が悪で、労働者は善」という単純な対立ではなく、その企業に雇われている労働者もいるわけです。ユージンの告発を阻もうと暴力を振るったのは労組側だったというのは事実のよう。そのあたりのジレンマは原発にも米軍基地の問題にも共通していて、普遍的です。

おカタい映画かもと敬遠することなく、コロナ禍でのオリパラ開催と矛盾が渦巻く今こそ見て欲しいです。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

あわせて読みたい