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とてつもない財政緊縮の実態~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

東京消防庁の発表によると、8月9日から15日の1週間に、管内で新型コロナウイルスの自宅療養者らの救急搬送要請が2259件あったが、うち約6割の1414人が保健所の判断により搬送されなかったという。

新型コロナが、死に直結する病であるにもかかわらず、症状が悪化しても、医療機関の受診さえできない。こんな事態は戦後一度もなかった。完全な医療崩壊だ。

厚生労働省の8月20日の発表では、全国の自宅療養者は18日午前0時時点で9万6709人だったから、現在は10万人を超えているだろう。まだ、死亡者数が爆発的に増えているわけではないが、10万人もの人々が治療を受けられないリスクにおびえながら、不安な日々を過ごしている。

自宅療養中に死亡するケースも20人ほど明らかになっている。8月17日には千葉県柏市で、新型コロナウイルスに感染した妊婦が、入院先が見つからずに自宅で早産し、新生児が死亡するという悲劇も起きた。

そうしたなか、20日に開かれた全国知事会は、全国を対象とする緊急事態宣言、あるいはまん延防止等重点措置を適用するよう求めるとともに、外出や移動を制限するロックダウンのような人流抑制策を要望する緊急提言をまとめた。

ところが、政府は動かない。私はパラリンピックの開催中(8月24日~9月5日)に、全国一斉のロックダウンと学校休校を同時に実施するのが望ましいと考えていた。デルタ株は子供にも感染する。このまま学校を再開すれば、学校でクラスターが発生する可能性がかなり高いからだ。

政府が動かない最大の理由は…

子供の夏休みを延長すると、親が面倒を見なければいけなくなる。だから、親の仕事も止めて、家族全員で巣ごもりできるようにすればよかったのだ。13日間の「ロックダウン」を実施すれば、爆発的な感染拡大はほぼ確実に止められただろう。

ただ、私の淡い期待は、すぐに裏切られた。萩生田光一文部科学大臣が、8月20日の会見で「国から全国一律の休校を要請する考えはない」と、あっさり一斉休校を否定してしまったからだ。ロックダウンのいわば最後のチャンスが、失われてしまったことになる。

全国の知事や感染症の専門家が口をそろえて強い対策を求めているのに、政府が動かない最大の理由は、財政問題だろう。全国規模のロックダウン的な強い規制を行えば、当然、補償をしなければならない。お願いベースの自粛要請とは性格が変わってしまうのだ。

財務省は8月10日に、国債や借入金などの残高を合計した「国の借金」が、6月末で1220兆6368億円と過去最大を更新したと発表した。残高合計は3月末と比べて、4兆1735億円の増加だ。

しかし、昨年度は1年間で102兆円も国の借金が増えている。3カ月あたり25.5兆円だ。それがいま約4兆円に激減している。菅義偉政権になって、とてつもない財政緊縮が進められているということだ。

だから、いまこそ問われなければならないのは、国民の健康と財政の健全性をはかりに掛けたときに、どちらが重いのかという問題である。

私は昨年度に100兆円以上の借金を増やして大丈夫だったので、今年も同様に増やして大丈夫だという立場だが、そこを離れても、人命より重い財政規律などないと思っている。

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