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キッチンカー商売“サバイバル”過酷な実情~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

軽トラックやライトバンに厨房設備を取り付け、その場で調理した弁当などを移動販売するキッチンカー(フードトラック)。以前はオフィス街やイベント会場でよく見かけたが、最近は住宅街にも進出して人気を呼んでいる。

飲食業界の関係者によれば、「数年前から台数が増え始め、コロナ禍でさらに伸びている」という。果たして、躍進の秘密はどこにあるのか。

キッチンカーの最新動向をフードアナリストが解説する。

「キッチンカーは人口の多い都市部で、急激に伸びています。東京都における2019年度の年間営業許可件数は、前年度に比べて約13%増の4152件。この時点で、10年前の約2倍に増えています」

なるほど、コロナ前から増加傾向にあったようだ。

「最大の理由は初期投資が少なく、誰でも参入しやすいことです」(同)

では、初期投資はどれぐらいなのか。一般的な試算によれば、東京都内で飲食店を開業するには、小規模店でも1000万円近くかかるという。ここに運転資金や月々の家賃を考えると、さらなる資金投資が必要だ。アルバイトなどのスタッフを雇えば、当然ながら人件費もかさむ。

一方、軽トラックなどをキッチンカー仕様に変える費用は、車両代込みで300~400万円前後と、店舗を構えることに比べれば半分以下で済む。これにキッチンカーの維持費として、駐車場代が月2~6万円、保険料が年間4~7万円、車検代が2年で7万円前後かかるという。

必要経費を差し引くと赤字の人も…

「通常の飲食店の場合、月の家賃が数十万円から数百万円かかることを考えれば、安いものです。車代を最初に一括して支払えば、月の費用はガソリン代だけ。キッチンカーはほぼ一人ワークなので、人件費も低コストです」(同)

ただ、キッチンカーの平均収入は、年収で約700~800万円程度といわれるが、この数字は大成功した人たちが平均値を押し上げた結果にすぎない。実際は年収400~500万円、月収30~40万円程度が一般的だという。必要経費を差し引くと赤字の人がいることも、頭に入れたうえで事業計画を立てる必要がある。

しかし、日本の景気が伸び悩む中、当たれば昼食だけで100食は売れる。一発逆転を狙った若手を中心に、異業種からの参入が相次ぐのも納得だろう。

昨年以降は、大企業によるキッチンカー業界への進出が相次いでいる。

例えば『デニーズ』を運営するセブン&アイ・フードシステムズは、今年2月、宅配とテイクアウト専門店『デニーズ 幡ヶ谷店』(東京都渋谷区)の駐車場内に、フードトラックを配置。看板商品のオムライスやカレードリアなどの弁当販売を始めて、大好評だという。

また『いきなり!ステーキ』を展開するペッパーフードサービスは、3密を避けてステーキを届けられるように、今年2月から『いきなり!キッチンカー』を始動させて話題をさらった。

さらに、大手外食チェーンのワタミは、この8月に山梨県1号店となる『から揚げの天才 河口湖 音楽と森の美術館店』をキッチンカーでオープン。今後はキッチンカーの出店を加速し、コロナ禍でマーケットが大きく変化する中、顧客ニーズのあるエリアに進出していくという。

3年後まで生き延びたのは約3割

超大手のハウス食品グループは、キッチンカー事業を始める飲食店に対して、キッチンカーの貸し出し、営業場所の選定などを代行する事業を始めた。2022年には月間売上高500万円を目指すと穴息は荒い。

前出の飲食業界関係者が指摘する。

「これまでビジネス街を拠点にしてきたキッチンカーは、リモートワークの浸透で一時は経営が厳しかった。だが、最近は高層マンション付近や住宅街に打って出て、売り上げを伸ばすキッチンカーが増えている。キッチンカーはコロナ禍でも、攻めの営業ができるのが強みです」

こうなると、今後は外食産業がさらに縮小され、猫も杓子もこぞってキッチンカーに走る傾向が強まっていくのか。

経済紙記者が警告する。

「過去にキッチンカーに進出した個人で、3年後まで生き延びたのは約3割と言われています。営業時間こそランチタイムの2~3時間だが、メニューによっては前日から仕込みをすることもしばしば。調理に火を使うので、料理によっては車内温度が60度を超すこともある。営業後も買い出しや車の掃除などがあり、かなりの重労働です」

加えて、最近は舌が肥えた顧客が増えているため、一定の味をキープできないと瞬く間に客足が遠のくという。

また、先の大手資本の参入に加え、最近は中国の即席麺大手『マスターコング(康師傅)』のキッチンカーが東京に登場するなど、海外資本の動きも活発だ。黄金期を迎えたキッチンカー業界への参入は増える一方だが、同時にサバイバル競争も激しくなる気配だ。

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