『ホテルローヤル』
監督/武正晴 出演/波瑠、松山ケンイチ、余貴美子、原扶貴子、伊藤沙莉、岡山天音、正名僕蔵、内田慈、冨手麻妙、丞威、稲葉友、斎藤歩、友近、夏川結衣、安田顕
配給/ファントム・フィルム
ホテルを舞台にした映画はいくつもあります。そこに出入りする客や経営者、従業員などの様々な人間模様が主題になることが多いのですが、ご多分に漏れず本作もその一つ。
しかし、大ホテルであればあるほど、最高のおもてなしやらホスピタリティーやら、妙なプライドを感じて鼻白むんですよね。一方で、本作の舞台は北海道・釧路湿原を背に建つラブホテル。でも、部屋に入ればやることはどちらも変わらないんですけどね。
伊丹十三監督の『マルサの女1』でのラブホは、ほとんどのお客が現金決済なだけに、売り上げをごまかしやすく証拠が残りにくい、ボロい商売のように描かれていました。ただ、本作でラブホ運営の一部始終を改めて見ますと、日々の掃除やベッドメイキングはもちろん、出入り業者とのやりとりあり、客のトラブルあり、そんなおいしいもんじゃない。大変なご商売であるな、と実感するわけです。
「大人だって、遊ぶ時は遊んでいいんだ」
波瑠演じる主人公は、そんな田舎のラブホテルに生まれた一人娘。美大受験の失敗や母親の失踪の末、渋々、家業を継いだ彼女の淡々と冷めた視線に、部外者である我々は知らず知らずのうちに感情移入してしまいます。
特に自分の心に響いたシーンがあります。それは波瑠が淡い恋心を抱くアダルトグッズの販売員・松山ケンイチとの会話。なぜアダルトグッズの仕事を続けていられるのかについて、普段は口数少ない彼が「男も女も、体を使って遊ばなきゃいけない時がある」と力説します。
昨今、瀬戸大也をはじめとして、不倫騒動を起こした有名人を社会的にリンチする風潮がありますね。不倫自体を礼賛するわけではありませんが、体を張って遊んだ彼らを、果たして頭ごなしに否定できるのか。浮いた話にご縁も勇気もない輩が、正義感を楯にしてここぞとばかりに叩く根底には「うまいことやりやがって感」が渦巻いているに決まってます。「人は体を張って遊ぶものだ」が、昨今の風潮に釘を刺すように思えて痛快でした。
原作者や監督の意図とは全く違うかもしれませんが、「大人だって、遊ぶ時は遊んでいいんだ」というメッセージを勝手に受け取ってしまいました。だからと言って、何一つアテはないのですが。
むしろ、昭和の郊外にあった典型的なラブホの外観や内観に、郷愁を禁じ得ません。実話世代の皆さんにとっても、この映画が若かりし時代に人目を忍んで逢瀬を重ねた、遠く楽しき日々を懐かしむきっかけになるかもしれませんよ。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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