『クロダイ』東京都／隅田川産〜日本全国☆釣り行脚

夏も本番。毎日暑いですな。この時期は日中の暑さを避けて夕方からチョイと竿を出す、なんてのもイイものです。

今回はそんな夕方からのチョイ釣りを楽しむべく、東京都は中央区の隅田川河口にやってまいりました。都心のド真ん中ともいえる同所でのターゲットは、スズキです。このエリアの運河や河口は、自然が少ない都心にありながらもスズキの魚影が濃く、加えて最近ではキチヌ（キビレ）の釣果も聞かれることから、ひょっとしたらスズキとキチヌの両方釣れてしまうかも…。どちらもそれなりの大きさになる魚ですから、都会のチョイ釣りとはいえ期待は高まります。

うだるような暑さが幾分和らぐ日没を待って、勝鬨橋の袂に到着すると、川べりの遊歩道には数名のスズキ狙いとおぼしきルアーマンが熱心に竿を振っております。彼らの邪魔にならないよう、少し離れたあたりで安物竿に胴突仕掛けをセット、エサのアオイソメをハリに付けて護岸際を探っていくことにしましょう。

スズキ狙いといえばルアー釣りが一般的ではありますが、なにせ技術不足のワタクシ、技術を要するルアー釣りでは魚が釣れる気がしないので、エサ釣りでトライです。

てっきりキチヌだと思っていた魚はなんと！

静かに仕掛けを沈め、竿を片手に護岸際に沿って遊歩道をゆっくり歩くと、ほどなくしてコンッ！　ココンッ！　と明確なアタリが手元に伝わりました。ここで焦ってもハリには掛からないので、落ち着いて様子をうかがいます。ググンッ！　とひときわ明確な手応えに竿を煽ると、小気味よい手応えで釣れ上がったのは手のひらほどの小振りなキチヌ。小さいとはいえ、これはこれで幸先のよいことで。やはりここ数年でキチヌは増えているんですねぇ。持ち帰るには忍びない大きさなのでハリから外して逃がし、エサを付け替えて再び探ります。

変化の少ない護岸化された都心河川においては、護岸こそが魚達のエサ場であり付き場ですから「そのうちにまたアタリがあるでしょう」と歩くうちに、いかにも魚が潜んでいそうな杭周りに差しかかりました。

「これは釣れそうな雰囲気だ」と、手を伸ばして仕掛けが杭スレスレを流れるよう、ことさら丁寧にねちっこく探ると、コツッ！　と小さなアタリ。「やはりいたか…」エサが自然に漂うように糸を緩めて待つうちに、スーッと竿先が引き込まれました。一呼吸おいて竿を煽るとズンッ！　と魚の重みと、激しい抵抗が伝わります。

「まずまずのスズキかしら？」などと思いつつ、杭に仕掛けを巻かれないようにやや強引なヤリトリをするうち、魚が水面下でギラリと反転、常夜灯に反射した魚影はスズキほど長くなく体高があります。こ、これは鯛系体型じゃないですの。力強い突っ込みに「切れるなよっ！」と念じながら糸を出したり巻いたり慎重に対応。ようやく水面で大人しくなったところで無事、玉網に収まり一安心。護岸に上げた魚をよく見ると、てっきりキチヌだと思っていた魚はなんとクロダイでした。キチヌと違って警戒心の強いクロダイが、こんなガサツな胴突仕掛けに食ってくるとはちょっとビックリです。

お江戸クロダイのお味は？

せっかくなので試しに食べてみるべく、血抜きを施してから釣りを再開。1尾釣れたポイントというのは魚が暴れたこともあって、続けて釣れるということは少なかったりもしますが、何となくまだ釣れそうな気配を感じ、念のためもう一度丹念に杭周りを探ります。と、なんと再び同じようなアタリがあり、同じような大きさのクロダイがヒット。これはちょっとビックリです。スズキ、キチヌは頭にありましたが、まさかこんな手軽な釣り方でクロダイが連発するとは…。

もっとも、この隅田川河口周辺も高度経済成長期以前は導流杭などクロダイの好釣場であり、環境が改善された現在となっては意外と普通のことなのかもしれません。そんな江戸前クロダイのお味やいかに、ということで刺身におろして軽く醤油を付けて一口…。かすかに特有の下水処理臭が鼻をつきますが、白身の味わいにほどよく脂乗りも感じられ、肴としては十分アリなレベルかと。

都心のド真ん中、隅田川で釣れたクロダイにワンカップで乾杯。刺身をたいらげ、短時間ながら楽しいチョイ釣りとなったのでありました。

三橋雅彦（みつはしまさひこ）
子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。