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『映画監督 三隅研次-密やかな革新』(作品社:吉田広明 3960円)〜本好きのリビドー/悦楽の1冊

『映画監督 三隅研次-密やかな革新』(作品社:吉田広明 3960円)〜本好きのリビドー/悦楽の1冊
『映画監督 三隅研次-密やかな革新』(作品社/3960円)

岸部一徳演じる小野田官房長役が殺されて以来すっかり見なくなった『相棒』シリーズだが、緊密な構成と見事な伏線の回収ぶりに唸らされる回の脚本は大抵、古沢良太(大傑作『バベルの塔』も!)だった。

何につけシリーズものを味わう際、こうした〝誰がデキるスタッフなのか〟を嗅ぎつけるのも大事なお楽しみ。その点、端整な美術と風趣溢れるセットで鳴らした往年の大映時代劇にあって、『座頭市』『眠狂四郎』の2大ドル箱シリーズ中屈指の名作といえば、どちらも三隅研次監督作品に限られてくるのに、後から気付く。

筆者にとって最初の衝撃はやはり『子連れ狼・三途の川の乳母車』(72)。

視界一面砂丘を舞台に、ある人物を護送する集団が静かに歩を進める。先頭をゆく護衛役が突如、鉄の鉤爪を砂の大地に突き刺す。と、そこからじわじわと血が滲みだし、後頭部を鉤爪に貫かれた刺客が絶叫とともに砂の下から現れる――。

演出に鏤められた無言のメッセージ

この場面の鮮烈さたるや。高校時分に初見で度肝を抜かれ、当時大ヒット中の『ターミネーター2』で流体金属の体を持つ敵役が床から浮かび上がるVFXを使ったシーンなど、てんで目じゃないと思い知らされたもの。

邦画全盛期の撮影所システムの中で引き受けざるを得なかった作品の多さから、強い作家性とは無縁の、いわゆる職人(これは尊称でもあると思うが)監督と見なされがちな彼。本書はその演出に鏤められた無言のメッセージを、ほぼ全作品に寄り添い「分身」「二」「外」といったキーワードを駆使しつつ丹念に読み解いてゆく。ちなみに353ページ、『子を貸し腕貸しつかまつる』で若山富三郎の拝一刀を挑発する賞金首のやくざ者は草野大悟ではなく松山照夫。余計なお世話ながら指摘しておく。

(居島一平/芸人)

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